TOPIC③ ASTD2011 International Conference & Expoレポート リーダーシップ開発は 個人の内面と向き合うアプローチへ
ASTD(米国人材開発機構)主催の「 ASTD International Conference & Expo」が今年も5月22日~25日まで米国フロリダ州オーランドで開催された。「 Learning to Lead(リードするための学習)」をメインテーマとし、リーダーシップ開発についてのセッションが例年に比べ多く用意されていたという。ASTD日本支部理事、リーダーシップ開発委員会委員長の理事を務める永禮弘之氏の視点でその一部をレポートする。
グローバルレベルの最新情報が一挙に集まる
ASTD(American Society forTraining and Development:米国人材開発機構)の最大のイベントが年1回のASTD国際会議だ。今年で67回を重ねるこの会議は、初夏の陽光まぶしい米国フロリダ州オーランドで、5月22日から25日まで開催された。4日間の会期中に300近くのセッションと342社に及ぶ出展会が開催され、人材開発・組織開発の情報収集や議論、ネットワークづくりを目的に、世界70カ国以上から8500名(うち米国以外から2500名)の参加者が集まった。
米国外の国で参加者が多いのは韓国(451名)、カナダ(214名)、ブラジル(146名)、中国(128名)であり、続く日本は119名。日本の参加者は、人材開発・組織開発にかかわる企業の実務者、研究者、コンサルタントが中心だ。
会場内には、「グローバルビレッジ」と名づけられた各国の参加者の交流ラウンジが用意されている。そこには、国内外を問わず他者と意見を交わし、グローバルの、溢れんばかりの情報を得て学びを生み出そうとする数多くの参加者の姿があった(写真)。
メインテーマは「リードするための学習」
ASTD国際会議では、毎年メインテーマが掲げられる。今年のメインテーマは、「Learning to Lead(リードするための学習)」だった。このテーマには、「学習は成功のカギであり、最も成功する組織は学習というアプローチを通じて社員をリードしている。この国際会議で成功に向け、学習についての優れた情報やベストプラクティス、ツールを得てほしい」という主催者のメッセージが込められている。
次に、主要テーマである「セッション・トラック」を紹介しよう。トラックは、図表1のように9つに絞られており、300以上のセッションはこのテーマで分類されている。したがってこの9つのトラックが、今年のASTD国際会議が注目する人材開発・組織開発のトレンドといえる。
昨年は、人材開発のコンセプトや調査、開発手法が「DevelopingPeople(人々の開発)」というトラックに広く集約されたが、今年は再度リーダーシップ開発を主軸にしたトラック「Developing Eff ectiveLeaders(優れたリーダーの開発)」が切り出され、リーダーシップ開発の重要性の高まりを感じた。
組織アプローチに替わる「個人」「社会」アプローチ
具体的なセッション内容の紹介に入る前にセッション全体を俯瞰し、今回のASTD国際会議で打ち出されたコンセプトの2つの大きな流れを捉えてみよう。
1つの大きな流れは、組織開発という組織単位のアプローチを超えて、組織に所属する一人ひとりの内面に根ざした個人単位のリーダーシップ開発や学習に焦点を当てるセッションが多く見られたということだ。組織変革、組織成果創出において人を効果的に動かす働きかけは、「組織全体に対してよりも、個人一人ひとりに対して」という認識が高まっているのだろう。
初日の基調講演では、マーカス・バッキンガム氏(元ギャロップ社コンサルタント)が、個人がそれぞれに持つ強みを最大限に活かし、自分に合ったリーダーシップを発揮することが組織の成功につながると説いた。また、翌日の基調講演では、ダグラス・コナン氏(キャンベルスープ会長兼CEO)が、個人の生き方や考え方に重要な影響を与える瞬間を、リーダーが組織の中でつくり出すことの必要性を主張した(詳細は後述)。
また、その他にも、個人間の信頼が成長のスピードを上げるというスティーブン・コヴィー氏の理論(後述)や、個人の脳の反応に焦点を当てた「NeuroLeadership理論」のセッションなど、個人の内面にアプローチするセッションが目立った(後述)。その一方、一時期注目された、AIやダイアログ、プロジェクトマネジメントのような組織開発・チェンジマネジメントに関するスキル・手法のセッションはあまり目立たなかった印象がある。