TOPIC① 気仙沼漁業協同組合支援チャリティセミナー 「狭くて不便な環境で働くマグロ船漁師に学ぶ ストレスをなくす技術」レポート 限られた資源・困難な状況でもストレスに負けない職場をつくる
去る5月11日、キャリアカウンセラー有志の震災支援団体J-Projectによる、気仙沼漁業協同組合支援チャリティセミナーが日本橋で行われた。講師の齊藤正明氏(ネクストスタンダード代表)は、会社員生活から突然マグロ船に乗ることになったという稀有な経験を持つ。そこから得た「マグロ船ストレスマネジメント」の勘所が、臨場感たっぷりに語られた。その様子をレポートする。
※なお、このセミナーの参加費の一部は、被災した気仙沼漁業協同組合に寄付された。
今あるヒトとモノで工夫するしかないマグロ船
現代のビジネスパーソンで、ストレスと無縁という人はまずいないのではないか。
今回の講師、齊藤正明氏も、かつてはまさに“ストレスフルな”職場で働いていた。大学卒業後バイオ系の会社に就職したが、職場の先輩や同僚は、無理をいう上司の下でどんどんやる気をなくし、「うつ」になる社員、出社しても一日中寝ている社員もいたという。齊藤氏も、いつ自分もそんな状況に追いやられるのかと考えていたある日、上司から「開発を一気に進めるために、マグロ船に乗ってマグロの全てを見てこい!」といわれた。唐突で理不尽な命令だ。しかしこの経験が、後に齊藤氏の人生を大きく変える。
「マグロ漁船では、1回の航海の40日間、1人当たり約2メートルの空間で過ごします。その間一度も陸に上がることもなく、仕事内容は肉体労働でハード。ところが漁師たちは、互いに仲良く協力し合って、笑いながら仕事をしているんです」
とりわけ齊藤氏が乗った船は、当時全国に500隻あるマグロ船のうちでも、トップクラスの売り上げを誇る船だった。なぜ漁師たちは和気あいあいと過ごして、しかも成果を上げられるのか。その背景には、次の3つの要素があると齊藤氏は話す。
1つめは、ストレスを上手に受け流すしかない環境だということ。漁の間は閉鎖された狭い空間で9人の漁師が生活するため、当然ストレスは溜まる。しかしそれをうまく受け流さないと、狭い船上で喧嘩になってしまうため、彼らはストレスをうまく受け流す技術を持っているのだ。
またマグロ船では、お互いに知恵を出し合わないと仕事にならない。漁の間は、病院に行くことも、機械を修理に出すこともできない。今あるヒトとモノで工夫をし、皆で協力し合わなくてはならないのだ。
そして、最もシンプルな理由が、「仲良くしているほうが儲かるから」というもの。
マグロ船の給与は、獲ったマグロを市場に売って、そのお金を船員皆で配分する。協力してマグロをたくさん獲ったほうが儲かるというわけだ。
「このような状況下で漁師たちが習得してきたストレスへの対応策は、ビジネスの場に全て当てはまるわけではないかもしれません。ですが、彼らが生き生きと働く姿からは、学ぶことが多くありました。そのエッセンスを紹介したいと思います」
ワークショップどれだけ多くマグロを獲れる?
講演の冒頭、齊藤氏は出席者に次のような課題を出した。
●皆さんは、今から同じ漁業組合の漁師です。できる限り多くの「マグロ」を獲ってください。