第10回 日誌とお茶会が伝える現場の知恵 子どもたちも先生も育つ幼稚園の学び 検証現場 成城ナーサリィ・スクール 牧村雅美氏 成城ナーサリィ・スクール 課長 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
成城ナーサリィ・スクールは、園児60数名の小さな幼稚園。子ども一人ひとりを尊重し、自主性を育む独自のプログラムを行うことで、地域でも人気の高い幼稚園です。幼稚園の先生たちの学びの場には、なぜか「お茶とケーキ」がありました。
子どもの自主性を育む教育
訪れたのは今年で創立44年を迎える成城ナーサリィ・スクール。桜並木の続く成城の住宅街の一画にある、園児60数名、先生は園長を含めて11名、学生ボランティアが4名という小さな幼稚園です。
朝、ホールに集まった子どもたちは、先生からその日の「フリータイム」活動について説明を受けています。活動メニューは「ホールでの大積木遊び」「紙箱のふたを額に見立てた貼り絵作り」「色紙や毛糸などを使ってのお弁当作り」「空き箱の電車作りと電車ごっこ」の4つ。説明を聞き終えると、子どもたちはその日の気分で、自分がやってみたい活動を選び、お目当ての教室へ向かいます。
各教室では、年次の異なる子どもたちが一緒に工作をしたり、ホールの大積木を使ってみんなで忍者屋敷を作ったり……。みんな夢中になって取り組んでいます。
成城ナーサリィ・スクールでは、年齢別のクラスごとに行われる活動もありますが、その日の活動を子どもたち自身が選ぶ「フリータイム」と呼ばれるオープンクラスの活動が週に3回あり、教育の中心となっています。自ら活動を選ぶことで、「やらされる」のではなく、主体的に活動に参加する姿勢が生まれ、自分で考え、自分で行動する習慣が身につくといいます。また、3歳から6歳までの子どもたちが一緒に活動することで、縦の関係が生まれるメリットもあるようです。
「自分の好きにしていい」といわれると、経験のない新入社員は何をすればいいかわからない。しかし、選択肢を与え、その中から選ぶことは難しくない。それは子どもも同じ。自主性を育てるには、ステップが必要。まずは他律から始まり、自律に向かうのだ。
やりたいことができる幼稚園
自分がやりたいことが自由に選べる幼稚園――子どもたちにとっては嬉しい環境ですが、先生方にとって、簡単なことではありません。
毎回、プログラムを考えるのも大変ですが、それに加えて参加人数や参加者の年齢が当日にならないとわからない、という難しさもあります。たとえば、工作なら、必要な画材や道具を多めに準備しておく必要がありますし、はさみを使う作業などは低年齢の子どもに危険がないよう、気を配らなくてはなりません。
また、同じ学齢の子どもが集まるとは限りません。異年齢の即席の集団に即座に対応しなくてはならないのです。その授業運営は、即興的(インプロヴィゼーション)な対応を求められます。
園の特色はフリータイムだけではありません。子どもたちが活動に熱中している時は、時間を延長し、昼食の時間が変わることもしばしば。また、天気のいい日には「近くの公園にお散歩に出かけましょう」とその日の予定を全て変更することもあるそうです。
こうした枠に捉われない自由さは、伸び伸びとした子どもらしさや自主性を引き出す一方、予定が計画通りに進みにくい、より安全に気を配らなくてはならない、といった側面もあり、職員、そして保護者からの理解がなければ成立しません。