連載 ID designer Yoshikoが行く 第 50回 あのカークパトリックがついに引退!?
「ドンが、とうとう引退を決意したそうだ!」
「えーっ?」
「うそっ!」
「まじでっ?」
新年度がスタートして早々、こんな悲鳴のようなコメントがfacebookの米国の教育研修のプロフェッショナルたちのグループに次々と書き込まれた。
焦るのももっともである。人材育成の世界で「ドン」といえばもちろん、ドナルド・カークパトリック博士のこと。彼が1959年に発表した『4段階評価』は、現在まで50年以上にわたり評価技法のスタンダードとして世界各国で広く活用されてきた理論なのだから。
「レベル1は学習者の満足度~♪、レベル2は学習者の理解度~♪、レベル3は行動の変化~♪、そしてレベル4は成果・結果~♪」というフレーズは、教育関係者なら掛け算の九九を唱えるように、自然と口から出てくるものだろう。
ドンに続いて、ジャック・フィリップスやロバート・ブリンカーホフといった評価のエキスパートたちが「これからは5段階評価だ」「いや6段階だ」と唱えているが、いずれもベースになっているのは「4段階評価」技法。評価の世界では「神様」のような人物である。
その神様が今年いっぱいで引退し、これからは故郷ミルウォーキーでの静かな生活を楽しむとのこと。80歳を過ぎても、講演の途中で十八番の「オーマイダーリン、クレメンタイン」を歌うほどエネルギッシュだったドンの決意に慌てたのは私だけではなかったはず。
思い起こせば10年前、ドンが主催する評価技術者(Evaluator)認定スクールに参加するまで、評価技法とはテストやアンケートの作成法や分析手法だ、くらいにしか考えていなかった私。しかし、そこで叩き込まれたのは、手法というより、プロの評価技術者としての倫理観、理想であった。