内省型リーダーシップ❸ ビジネスシーンで内省を実践する
今月号から、筆者を交代し、八木氏の研究成果である「内省型リーダーシップ」をビジネスに活かす手法を紹介します。一般的に多くの人が成果を上げるべく行動の振り返りを行っていますが、抜本的な改革や継続的な成果にはほとんどつながっていません。そうしたMBA的アプローチの限界を超え、新たな問題を発見することができる内省をビジネスでも活用する方法と有効性について、事例を交えて解説します。
抜本改革のカギは内省
筆者(永井)は野村総合研究所におけるIDELEAという事業の事業推進責任者です。IDELEAは経営者に対するエグゼクティブコーチング事業と、対話を活用して組織のビジョンを磨き上げ達成することをサポートする事業を行っています。
事業立ち上げから5年間で約65社の一部上場企業のトップに対してエグゼクティブコーチングを行った他、約10社で経営層や経営幹部、時には全社員が集まり対話を通じて内省を深めた実績があります。
これらの経験から、ビジネスにおいても内省型リーダーシップを取り入れることにより、業績や新商品開発などビジネス上の成果を高め、持続的に成果を出し続けることができると確信しています。
個人レベルでも、自分自身のストレスを低め、部下の活性度を高めることができることは、八木先生の研究の成果でも示されている通りです。
エグゼクティブコーチングでは、2週間に一度、90分ほどの対話を行います。基本的には、経営者が問題であると考えているテーマについて、コーチの言葉をきっかけとして深く考えを巡らせていきます。八木先生は、内省型リーダーシップは氷山モデルの下の部分(行動パターン、構造、意識・無意識の前提)まで探究すると述べています。筆者は、ビジネスにおいて、より実践的な探究の仕方を提示します。探究の対象は、図表1のように形式的に4つのレベルに分けることができます。この4つのレベルで、 自分の置かれている現状を客観的に認識し、現状がベストではないかもしれないという仮説を持って考えを巡らせ、内省を深めていきます。
一般的に、このような内省思考を一人で進めるのは難しいことです。そのため、私のようなコーチがいるわけですが、今回は、私がコーチングを行った老舗メーカーA社のB社長の内省の様子を紹介し、内省が現実のビジネスに、どのように役立つかを解説していきます。
ケース:老舗メーカーA社
〈MBA的アプローチの限界〉
家電メーカーA社は老舗である。もともとはステレオのコンポーネントで高い評価を得ていた会社である。だが、近年の消費者のステレオ離れ、ハイエンドな海外ブランドの参入により、業績は悪化していた。
この状況に危機感を覚えたB社長は、経営陣との合宿を行い、PDCAサイクルの検証やSWOT分析を行った。その結果、強みであるステレオの音質と、コストの両方を追究しようと決定。だが、半年たっても業績は、改善どころか悪化するばかりであった。
自社での取り組みに限界を感じたB社長は以前から親交のあった経営コンサルタントC氏に相談。C氏は、「市場の変化に十分対応していないことが最大の課題であり、開発における高コスト体質やマーケティング機能の不足が喫緊に改革されるべきである」とアドバイスした。
ステレオブームは、はるか昔に過ぎ去り、今や若者は、携帯音楽プレーヤーや携帯を片手にヘッドホンで音楽を聞く。従来A社は技術本部が主導して新商品を開発し、ヒットしてきた歴史を持つ。そんな技術本部が、現在の市場を意識していないことは明らかだった。