東洋思想に学ぶ 変化とともにあるための易経① 混沌の時代こそ経営に活きる東洋思想
混沌の時代を迎えた現在こそ「易経」の価値は高まる
グローバル時代の到来といわれて久しいが、本当の意味でグローバル化に動き出したのは、ここおよそ10年ではないだろうか。それ以前は、20世紀の繁栄を主導した米国に寄り添う行動をグローバル化と呼んでいたのではないかと私は考えている。
世界は大きな転換期にさしかかっている。中国はじめ新興国が世界経済の主役となり、欧米の経済力は明らかに収縮している。イスラム諸国の混乱にも見られるように、米国が先導力を失ったことで世界の勢力図はダイナミックに変化している。まさに混沌の時代である。
混沌の時代をどう生き抜くかは、企業の大命題である。米国流の経営だけで、この難局を乗り切れるとは到底考えられない。同じ感覚を持ちはじめた経営者やビジネスパーソンが増えているのだろう、東洋思想に経営のヒントを得ようとする潮流が起きている。
初めてこの思想に触れる人にとって、東洋思想はとらえどころがないといわれる。「まずは論語」という答えもあるが、今、経営者に求められるのは、混沌の時代に世界がどう変化し、次にどんな姿を現すかという未来を見通す思考ではないだろうか。私は、「変化の書」と呼ばれる『易経』に接することが、その思考を鍛える1つの方法だと考えている。
ビジネスに活かす易経の教えその根本思想は「変化」にある
中国や台湾では、ビジネスに易を活かそうとする動きが盛んだ。中国では易の考え方をベースに、欧米や日本のビジネス手法を分析する研究が進んでいる。私の知る限り、浙江大学の教授が著した『東方智慧与符号消費』(消費の記号を中国的な考えで読み解く)という研究報告書が出版されている。北京や上海の書店では易経コーナーの人気が高い。台湾では、企業有志が集まって易経の勉強会が開かれている。易に関する書物も多くのビジネスパーソンによく読まれている。西洋思想とは全く異なる世界観から、未来への方策と次なる戦略を練る取り組みは、日本企業にとっても大いに示唆に富む。
この連載では、古代中国の思想を現代の経営に活かすヒントをご紹介していきたい。まずは易について、その基本を説明しよう。
易とは、自然界と人間界に起こるあらゆる事象の変化を予測するため、天文、地理、気象、生物、数学などの知識を集約し、体系化したものである。易といえば「なんだ、占いか」と決めつける人もいるが、占いは易の部分的要素でしかない。あらゆる事象の本質は「変化」であるとし、変化を洞察して実生活または仕事に活かすことこそが易の核心である。事実、易は古代中国で生まれてから数千年もの間、実践的な行動指針とされてきた。
易の思想は、四書五経の1つに数えられる易経にまとめられている。五経は、四書の前から存在する儒教の基礎をなす古典であり、易経はそのうちで最も古く、3000年以上前に周の文王が記したといわれ、「周易」とも呼ばれている。易経が誕生して以来、どの時代の為政者も国の統治に易経を活用したことから、帝王学だとみなされることもある。