企業事例③日本モレックス 入社3年間は職場ぐるみで育成のグッドサイクルを回す
日本モレックスは、世界3位のコネクター・メーカーである米国モレックスの日本法人。同社では、新卒採用を重視し、内定時・入社後・配属後の若年次教育を“基本”・“Way”を軸として一貫して行うことで、人材を体系的かつ継続的に育て上げている。教育担当が起点となり、新入社員と現場、そして教育部門が一体となった若年次教育の取り組みを紹介する。
新卒採用重視と徹底した若年次教育
日本モレックスは、モレックス・グループの核となるキーカンパニーであり、グループの新製品の約3分の1を開発している。同社は、企業の理念を定めたミッション、それを実現するためのビジョン、そしてそれらを行動様式に落とし込んだWayを4年前に定めた(図表1)。
このWayは、同社がグローバル企業として持続的な成長をとげるために、社員一人ひとりが全うしなければならない普遍的な指針であり、企業価値観(DNA)である。
日本モレックスでは、新卒を採用し、Wayをベースとした教育をしっかりと行うことが“変化に対応し、持続可能な組織づくりに欠かせない”として重視している。中途採用を中心にしていた時期もあったが、現在では新卒採用中心にシフトしてきている。人事総務本部 APN人事部 大和採用研修グループの小畠範子氏は、新卒採用の考え方について次のように述べる。
「新卒採用自体は10年以上前から行っていますが、その重要性を改めて確認し、一層重視した方向を打ち出したのが一昨年のことです。つまり、新卒を積極的に採用し、仕事の基本やWayをしっかりと教育することによって、グローバルで活躍できる人材に育てていこうという方針です。新卒一括採用はグローバル規模で見ると日本独自の慣行ですが、日本モレックスとしてグローバルに活躍できる人材を育成する方法として、この方針を打ち出しました」
後輩指導ができるまで育て育成のグッドサイクルを回す
近年の新人の傾向は、「可能性があるのに、小さくなっている印象」だと小畠氏はいう。同社でも、一般的にいわれるように、コミュニケーションやマナーなどの基礎力の低下や、精神的な打たれ弱さが目につくが、これは「環境が用意されていないために、怖れているだけ」だという。だからこそ、多少厳しくても、“知る楽しさ”や、“学ぶことによって生まれる好奇心”を喚起するようなきっかけを提供したいというのが同社の考えだ。入社3年間は教育投資期間と位置づけられ、教育機会は十分に提供される。ただし、3年経過後は習得度合いが評価に反映されるという厳しさも持つ仕組みとなっている。
若年次教育のゴールは、個人にとっては仕事の基本について、「後輩指導ができる」レベルになることとし、そのために“入社3年間で徹底して基本を習得する”ことが目標の核となる。
こうして、新人が“指導できる先輩”に育つことで、職場に「育成のグッドサイクルが回る」状態になる。すなわち、職場に育成風土をつくることまでを見据えた施策となっているのである。
育成のグッドサイクルを回すには、上司との連携も不可欠だ。小畠氏は「教育部門と職場、職場の上司と部下が一緒になって2年間頑張れば、職場でグッドサイクルが回るようになり、周りも楽になる。それまで頑張って皆で新人の成長をサポートしていきましょう」と職場の上司にメッセージを送り続けている。
「若年次教育を徹底して行うには、職場の上司のさらなる関与が欠かせません。毎年必ず、新人育成の施策内容に関する上司向け説明会を実施しています。教育に積極的な上司は、進んで参加してくれますが、本当に説明が必要なのはそこに参加していただけない方。そこは個別に連絡を取って、1対1でしっかりと説明し、納得していただく必要があります。1対1でしたら、本音で話し合えますので、概ね理解していただけるものです。もちろん、忙しい上司の方々に対して、出欠確認を簡単に行えるように仕組みを整えるといった配慮も意識的に行っています。当社はまじめな社員が多いですから、しっかりした育成の仕組みをつくり、目的や意識を正確に伝えさえすれば、皆きちんと取り組んでくれるだろうという思いもありました」
教育担当者が上司を巻き込みながら、どのような育成の仕組みを構築していったのか。次に、具体的な施策について見ていこう。