企業事例①大分キヤノンマテリアル 成長する喜びを生む巻き込み型の若手育成
キヤノングループの化成品の主要量産工場として急成長を遂げる大分キヤノンマテリアル。同社では、社員一人ひとりが自立した人材となり、周囲と協働し合えるように、若年層教育に力を入れ始めている。「育成課題は多々ある」と謙遜しながらも、若手の育成を土台として、先輩社員の主体的なかかわりや、人材育成施策の“見える化”を促すことで、会社全体を“学ぶ風土”へと進化させようと試みている。
キヤノンパーソンの前に一社会人たれ
大分キヤノンマテリアルが設立されたのは1998年。以降10余年で順調に生産を拡大し、5年前には500人ほどだった従業員数が現在では2000人近くになるなど、急成長を遂げている。社員の平均年齢は27歳弱と若く、“いかに若手人材を育成するか”が今後の成長のための大きな課題だと、同社総務部長の福原宏氏は語る。「企業として成長できていること自体は好ましいことですが、企業の価値をつくるのは人。人の成長なしに今後の発展はありえません。特に若年層の社員は高校や短大を卒業してすぐに当社に入社した者が多く、知識、能力以前に社会人としての意識も十分とはいえません。また最近の傾向として、“いわれたことしかできない”といった問題やメンタル面の弱さも感じます。スキルを超えた人間力そのものを育成し、企業の成長に人の成長を追いつかせることが大きな課題です」(福原氏)
同社では、「キヤノンパーソンの前に一社会人たれ」を人材育成のモットーにしている。
一社会人として自立するには、そのための意識、行動、基礎力の向上が欠かせない。また環境変化の激しい時代を生き抜くためには、ただ仕事をこなすだけの人材では対応できない。こうした問題意識を踏まえ、「仕事で学ぶ」(OJT)、「研修で学ぶ」(Off -JT)、「自分で学ぶ」(自己啓発)を3本柱として、自ら考え、行動できる人材育成の仕組みづくりに取り組んでいる(図表1)
「三自の精神」の醸成、通信教育とOJTの連動
キヤノングループには「三自の精神」と呼ばれる行動指針がある。これは、「自発」「自治」「自覚」の3つの頭文字を取った言葉で、創業以来、同グループに脈々と受け継がれてきた基本精神である。
人が成長するためにはまず、「自発」的でなければならない。どんなに素晴らしい教育環境を提供しても、自ら学ぶ意欲がない者には無用の長物である。またやみくもに学んでも無駄が多く、まずは社員一人ひとりが、自分が置かれているシチュエーションを「自覚」したうえで、何を学ぶべきなのかを認識する必要がある。そして実際に学び続けるためには仕事と生活、学習のバランスを考えた自己管理を徹底すること、すなわち「自治」が必要である。「三自の精神の中でも基本となるのが『自発』的であることです。会社の目的・目標を理解し、自らに与えられた役割・使命を認識する。そのうえで、どのように実践すればよいかを考え、行動して、成果を出す。その繰り返しが働くモチベーションにもつながっていきます。新入社員に対しても、そうした自発性を求めながら、一方で先輩社員や我々教育担当者が側面からサポートする仕組みを構築しています」(福原氏)