Opinion② 教育担当者の前向きな行動が“原石”を光らせる
愛知県初の民間企業出身の県立高校校長として、さまざまな教育改革を実践してきた鈴木直樹氏。人材=光を放つ原石であり、人材を否定的に見る人のほうが問題だといい切る。人材はプラス思考で育むことでどのような光を放つのか。民間企業での人づくりの経験を経て、現在は教育現場で次代を担う人材を育てる鈴木氏の実践から、その意味を考えてみたい。
最近の若者は問題がない問題視するほうが問題だ
最近の若手社員は、基本能力が低下している、主体性がない、マナーやモラルが低下している……。社会の各方面において最近の若者の傾向を憂い、このままでは日本の社会も産業も立ち行かなくなるのではないか、という悲観的な声をよく聞く。しかし私は、いわれているほど大きな問題はなく、むしろ優れた若者が多いとさえ思っている。
たとえば、今回の東日本大震災においても、多くの若者がボランティアとして被災地に駆けつけた。地元の刈谷駅周辺でも大学生たちが、胸が張り裂けんばかりの涙声で協力を訴え、1000万円を超す募金を集めた。
大人たちが自分たちのライフスタイルを見直すことにすら四苦八苦している中で、若者たちは震災を自分たちの問題として真摯に受け止め、行動に移している。これは、彼・彼女らが大人にはない主体性や行動力を持っていることを象徴する事柄ではないだろうか。
今の世の中は情報が氾濫し、自分は何をめざして生きていくのか、目的や方向性を明確にしにくい環境にあることは確かだ。しかし今の若者が昔に比べて劣化していることはないと感じる。一面的な現象だけを見て「問題だ、問題だ」と騒いでいることのほうがよほど問題であることを認識すべきだ。
少なくとも、人を育てる立場にいる人がマイナス面を口にすべきではないだろう。人材開発担当者は、「誰もが光る原石である」との認識を持ち、プラス思考で人材育成に取り組んでいただきたい。
「今年の新入社員はいい」といい続けると会社は変わる
では、その人が持っている可能性を信じて前向きな気持ちで人を育てるにはどうすれば良いのか。新入社員教育を成功させようと思ったら、「今年の新入社員はいい」といい続けることから始めてほしい。場合によっては、人事部発で「今年の新人はいいなキャンペーン」を展開してみてはいかがだろうか。
というのは、「今年の新入社員はいい」と社内に浸透させることで、「そんなに優秀な新人なら積極的に仕事を任せたい」「優秀な人材なら育てがいがある」といった前向きな見方が広がるからだ。そしてやがては社内全体が新入社員をプラスイメージで捉えるようになる。新人も周囲の期待に応えようと努力するため、最初は噂話でしかなかった「優秀な新入社員像」が実像となる。最終的には「この会社っていいなキャンペーン」に変化するはずだ。
もちろん、採用担当者や新入社員の育成担当者は、今年の新卒採用がうまくいったかどうかを検証するだろう。また、新卒採用の成果を評価するための基準を持つことも重要である。
それでも、そこで自らが採用した人材を悪くいう人は、採用、あるいは新入社員教育の目的がわかっていない。また、どこの学校から何人採用したといった卑近な基準を持つことも戒めるべきだ。入社時には問題があると感じる新人でも、何年か後には大きく育つ可能性もある。どんな人でも、最初は“原石”。そのことをしっかりと認識し、原石を光らせる方法を考え、力を注ぐことこそが人材開発担当者の務めなのだ。