Opinion① 新人、若手が育つ職場をつくるには
「現場のOJTが機能しない」といわれ出して久しい。人は職場でどのように学習し成長しているのかを探究した『職場学習論』の著者、中原 淳氏は、若手が育つ職場づくりのためには、現場マネジャーの協力が不可欠であり、そのためには「教育担当者が“現場の言葉で育成を語る”ことが重要だ」と話す。若手社員が成長する職場のために教育担当者は何ができるのか。
新人の基本能力は低下しているのか?
「新人の基本的な能力が低下している」「新人がなかなか育たない」。企業の人事・教育担当者や現場の管理職の方々とお話しすると、しばしばこうした言葉を耳にする。その後で「やはり大学教育に問題がある」といった苦言を頂戴することもある。
では、今の新人は、本当に基本能力が欠如しているのだろうか。確かに、ゆとり教育の弊害や高等教育機関と職業領域との接続(School toWork Transition)の不具合といった問題が、社会人として必要な基本的な能力の低下を引き起こしている面はあるのかもしれない。しかし、マクロな視点に立てば、社会がこれだけ複雑化、高度化している今、新人が会社に入って最初に与えられる仕事自体が複雑化、高度化しているともいえる。
仕事が高度化、複雑化すれば、新人も、それに対応する高い能力を要求される。本来ならば、要求される能力が高くなればなるほど、教育期間を延ばす必要がある。実際、先進国ほど、教育期間が延び続けている。しかし、新卒の入社年齢はほとんど変わっていないため、必然的に企業に入ってから能力開発に費やす期間が延びてしまう、という仮説も成立する。
また、時代の変遷に伴って、若手の側でも、高まる能力と、低下する能力があるように思う。たとえば、日々、学生たちと接していると、プレゼン上手な人が多いと感じる。今の学生は、実に軽やかに、人を巻き込んでNPOをつくったり、人を集めて大きなイベントを成功させてしまったりする。一方で、総じて電話が苦手だ。携帯などで直接本人と連絡を取るのが普通なので、企業にアポを取るための電話に苦労するようだ。また、待ち合わせに遅れる人も多い。これも携帯電話の影響だろう。
新人の基本能力が低下している、といわれる問題は、こうした社会環境の変化と無縁ではないはずだ。また電話応対など「世代の上の人から見て、下がっていると思われる能力」は存在するかもしれないが、逆に「上がっていると思われる能力」もあることを忘れてはならない。いずれにしても、若者の能力に対する認知バイアス(思い込み・決めつけ)を避けることが重要だ。
新人を育てることの意味
そもそも、仕事のイロハも知らない新人を、苦労して現場で育成する意味はどこにあるのだろうか。新入社員がいたほうが、事業継続、事業発展にプラスになる可能性が高いと経験的にわかっているからだ。
仮に、新入社員がいなくても事業継続できるのであれば、あえて新卒を採用する必要はないし、中途採用という選択肢もある。ただ、「中途採用だから即戦力になる」という考え方は、どうも怪しいように感じる。私の研究データによると、中途採用の営業職として転職した後、1年以内にノルマを達成できている人は、2割程度しかいない。