特集 現場を巻き込む熱意を持て! 教育担当者が変えるこれからの若年次教育
基本を、しっかりと職場ぐるみで育成する
本誌では、昨年7月号の特集「基本のできる若手を育てる」で、若年次社員の育成課題として次の2つを挙げた。1つは、若手の「読む力、書く力、考える力」という“基本能力”を土台として、「挨拶や報・連・相、主体性」といった基本行動・基本態度をしっかりと身につけさせること。もう1つは、受け入れ側となる職場の育成力の向上である。すなわち「基本を、じっくりと、職場ぐるみで育てる」ことが、配属先による教育レベルのバラツキを是正するために、欠かせない方策であると提言した。
今、あえて「基本」にこだわるのは、若手社員の基本能力低下を問題視する教育担当者が増えているからだ。原因として、ゆとり教育の影響を指摘する向きもあるが、それは目の前の社員教育を担う教育担当者にとっては虚しい議論でしかない。日本能率協会マネジメントセンターが例年、実施している採用・教育担当者へのアンケート(『若手社員に対する問題意識』図表1)でも、若年次教育に高い関心が寄せられており、中でも「配属後の職場(現場)教育のあり方に問題意識を持っている」教育担当者が増えている(図表2)。
さらに、「組織の持続可能性」という視点から、新入社員の採用・育成の効用を再認識する傾向も出てきた。急速なグローバル化もあり、一人ひとりの個性を活かす人材マネジメントはますます重要性を増している。「多様性の確保と組織としての一体感の醸成を同時にめざす」という新たな人材育成課題もクローズアップされている。これに対応する形で「ウェイ(組織価値観)」を明示・浸透させようとしている企業の取り組みを6月号でも紹介した。
今号で事例として取り上げた日本モレックス(P42)では、「持続可能な組織づくり」をめざし、新卒採用中心へと舵を切り、ウェイをしっかりと教育している。今後、「自社のDNA継承のための人材育成投資」という側面からも、新卒採用・育成の重要性がますます高まっていくものと思われる。
職場ぐるみの育成を阻む課題
「基本の定着」や「価値観の浸透」は、若年次から計画的・継続的に行う必要がある。今回のオピニオンである中原淳・東京大学准教授(P26)は、「育成機会として特に重要なのは、“職場で何かが起きた時”であり、その瞬間に、誰かがきちんと目をかけていることの蓄積こそが、基本の定着や価値観の浸透に大きく影響する」と指摘している。新入社員にとっては“毎日が初体験”だ。会議、出張、資料作成、報・連・相、接待や飲み会――それぞれの機会が絶好の育成機会なのだ。ここに、改めて職場ぐるみの育成=真のOJTのあり方が問われている。
大切なことは、この考え方を「いかに現場で実践するか」である。実際、現場のマネジャーは目の前の激しい競争と目標達成に向けたプレッシャーの中で多忙な毎日を過ごしている。いわゆるプレイングマネジャー化が進んだことで、こうした傾向は年々強くなっている。新人指導の大切さは認識していても、十分な指導を行えるマネジャーはどれくらいいるだろうか。一から育てるよりも、「即戦力で成果を上げてくれる人材がほしい」という声が人事部門に寄せられる企業も少なくない。
一方、教わる側の新人も「受け身」の傾向を強めている。先述のアンケート結果でも、「若手社員に対する問題意識」の2番目に「主体性(やる気)の不足」が挙げられており、「いわれたことしかやらない・できない」新人の傾向が顕著になっている。
日本生産性本部は、2010年度入社の新入社員を「ETC型」と命名した。「性急に関係を築こうとすると直前まで心のバーが開かない」とし、「上司や先輩はスピードの出し過ぎにご用心。会社は、ゆとりを持って接し、永く活躍できるよううまく育ててほしい」と結んでいる。