連載 ID designer Yoshikoが行く第63回 哲学の国で遊びながら思想のプロになる?!
ベルリンに行くたびにお茶するYくんは、大学の後輩で、現在フンボルト大学大学院で博士論文執筆中の学者の卵である。フンボルトといえば、森鴎外も学んだドイツでも指折りの名門大学。中でも最も保守的な「ドイツ人の城」であるドイツ哲学の研究室で、ネイティブの精鋭たちに囲まれて切磋琢磨していると聞けば、さぞかし思いつめて机にへばりつき、青白い顔でストレスの固まりになっていることだろうと想像したが、さにあらず。
会うといつも、「またまた美味しいケーキ屋さん、見つけたんですよぉ」と嬉しそうにカフェに誘導し、「ゴチしてくれるんですか? うーん、今日はどれにしようかなぁ」と、勝手に悩むスィーツ男子である。「あのねぇ、悩むポイントが違うんじゃないのぉ?」と先輩としてはツッコミを入れたくなるほどだ。
Yくんがかくも天真爛漫に海外留学を楽しんでいるのにはワケがある。留学が決まった時に、指導教授の、そのまた指導教授に当たる高名な独文学者から渡された1通の手紙がそれである。その手紙には、――貴君への餞に、私が50年前に留学する時、私の先生からいただいた言葉を贈ろう。「留学が成功するか否かは、『遊びの気分』を持つことができるかどうかによる。『遊びの気分』を忘れず、ドイツでの生活を楽しみたまえ」――とあった。
尊敬する師の言葉には絶対服従のYくん。暇とお金さえあればオペラ劇場に通い、美術館をブラブラする。大学主催のスポーツ・イベントには必ず顔を出し、週末のバーベキュー・パーティではいびつなおにぎりを持参して笑いを取る。そしてコロキウム(ゼミ)ではやや控えめに、その後の飲み会では大いに積極的に発言して盛り上げる。もともとフットワークが軽く人づき合いも良かったが、それがますますグローバルに拍車がかかった感がある。
哲学の国のテニス練習
そのYくんの『遊びの気分』のひとつ、大学主催のテニス・レッスンを覗いてみた。