連載 金井壽宏の「人勢塾」に学ぶ。試す! 人と組織の元気づくり 第2回 ワークショップ
成熟社会。正解のないビジネス現場。社内のコミュニケーション不足――これらの課題に、即効性のある薬などないことは、誰もが感じているだろう。この状況に風穴を開ける術は、全くないのだろうか?その問いに挑むのが、神戸大学で金井壽宏先生が主催する第4期「人勢塾」。本誌では、「人勢塾」全10回の授業をレポート。施策1つで問題を解決するのではなく、組織全体へ多様なアプローチをする。そんな「組織開発」の手法を学び、ぜひ現場で試していただきたい。
「人間主義」がベースの組織開発
「組織開発」をテーマに始まった「人勢塾」第4期。第2回の講師は、ワークショップ企画プロデューサー・中野民夫先生。大手広告代理店を今年退職し、同志社大学大学院教授に就任。学生時代には、インド・中南米を放浪、会社員時代も、休職してカリフォルニア統合学研究所に入り組織開発・変革学を学ぶなど、ユニークな経歴をお持ちだ。
中野先生を招いた理由を金井先生は、「技法より、人間的な思想に触れてほしいから」と語る。「そもそも組織開発では、メンバーがどういう経験をした人なのか、という『人間主義的価値観』を大事にしていました。しかし徐々にビジネスプロセスやコストを重視するようになった。変化がワクワクからコワゴワになったのです。若い人に元気がない今こそ、人間主義に戻るべきではないでしょうか。そんな思いで、人間的基盤を語れる中野先生にお願いしたのです」
中野先生のベースをつくった体験
ワークショップやファシリテーションの道に入ったキッカケを、「恩師の影響」と中野先生はいう。「高校時代、倫理社会の先生が、単位や受験に関係なく、明治以降の思想家を取り上げては語り合う場を設けてくれたのです。『与えられて学ぶ』のではなく『学び合う』ことの原点に触れました」。その後、東京大学では、著書『気流の鳴る音』との出会いをきっかけに、見田宗介先生のゼミに所属。ちなみに、インドに始まる放浪の旅も本書の影響だったとか。「僕らが豊かだと思っている、実は貧しい豊かさの概念を解き放つには、近代文明外の刺激が必要だと考えたんです」
次なるターニングポイントは、会社を休職して留学していた頃。湾岸戦争が始まった直後、中野先生は、サンフランシスコ周辺の反戦運動の状況を日本に知らせようとした。そこで、仏教学者で社会活動家のジョアンナ・メイシーさんにインタビューをする。「この戦争を止めるために、何ができるんでしょうか?」――メイシーさんの答えはこうだ。「その質問こそが出発点。孤立せず、集い合い、問い合うことが力です。すぐに答えが出なくても、次のことにつながります」。この言葉が、中野先生のワークショップの原点になる。「日本はすぐ諦めムードになりがちですが、それでは望まない社会ができあがる。愚直でも、集い合い、問い合うことが、難問の多い現代には大事」。ワークショップやファシリテーションは、その集い方の作法だ。「それは、組織をゆるやかに変えていく『やさしい革命』だと思うんです」と中野先生は締めくくった。
Liue Repont
全10回の2回目。いよいよ、ゲスト講師のセッションがスタート。当日は、10時30分から18時までと終日、中野先生のファシリテートで過ごした。屋外で身体を動かしたり、ランチタイムも学びの場にしたりと、全部で4つのワークを実践。「体感・体験から気づく」一日となった。