企業事例1 コマツ コマツウェイという心構えがリーダーを育て品質をつくり込む
日本企業の中で早い段階からグローバルにビジネスを展開してきたことで知られるコマツ。現在、世界各国で事業を展開している同社では、2006年に、長い歴史の中で培ってきた同社の強さやそれを支える信念、心構え、行動様式を『コマツウェイ』として明文化した。世界各国にある現地法人とコマツウェイを共有することは、グローバル展開にあたりどのような効果が期待できるのか。同社の事例で見ていく。
先人たちの知恵を世界規模で共有
日本企業の中でいち早くグローバル化に着手した企業として知られるコマツ。現会長の坂根正弘氏が社長だった2005年、次の社長へバトンを渡すにあたり、「人が変わってもコマツの組織・社員の中でグローバルに脈々と受け継いでいってほしいこと」を『コマツウェイ』として明文化するプロジェクトを立ち上げ、翌2006年に第1版を発行した。人づくりにおいても、この『コマツウェイ』を全世界のコマツグループ各社に浸透させることを重視。
コマツウェイ総合研修センタ所長の荒井秀明氏は、コマツウェイについてこう話す。「コマツウェイは、経営層を含む世界のコマツグループの全ての社員が永続的に継承すべき心構え・価値観です。国籍や世代を超えてコマツグループの考え方を伝えることは、コマツが創業以来培ってきた製品の品質・信頼を向上し続けるうえで欠かせません」(荒井氏)
同社のグローバル化は、1955年のアルゼンチンへの輸出に始まる。1970年代には、国際教育を受けた日本人駐在員を現地法人のトップとして派遣し、現地のスタッフは日本人の部下として働いていた。「長らく日本人駐在員が現地法人のトップとして勤務する時代が続いていました。現地で採用した社員の中には、経営層への昇格が難しいとわかると、他社へ転職してしまう人も多く、現地法人のノウハウの蓄積や当社の品質や技術を守るうえでの課題となっていました」(荒井氏)
1990年代にはM&Aを行い、全世界にコマツグループが拡大。日本人駐在員が現地トップを務めていた時代には、経営はコマツのやり方を熟知した日本人が行い、マーケティングは、現地の市況に詳しい現地の人材を活用するという住み分けがなされてきた。
しかし、2000 年代に入ると現地で採用した人の中にも勤続年数が長く、コマツの考え方を理解できる人材が増加。かつてのように日本人=経営トップである必要がなくなってきた。長年にわたって同社に貢献してきた現地の人材にトップを任せることは自然の流れであり、現地法人で働くスタッフのモチベーションアップにもつながる。こうした状況から、現在は現地法人のトップは現地の生え抜き人材にという方針で後継者育成を進めている。
同社では2000年代に入り、改めて“日本のモノ作り企業のコマツ”というスタンスでグローバル展開を行うことを決断した。
日本の建設機械はその性能やモノ作りの技術が世界的に高く評価されている。さらに建設機械は過酷な現場で使われることが多く、頻繁に機械の保守点検や修理が必要となる。また一度購入すると5~10年と長く使われるため、きめのこまかいアフターサービスが重要となる。
そこで、創業の地である日本から先人たちが培ってきた知識や技術を発信し、コマツとしての強みを世界で維持しようと考えたのだ。