巻頭インタビュー 私の人材教育論 ポジティブな挑戦と不安が人を育て安心が成長を妨げる
三菱電機株式会社(以下「三菱電機」)の設計をアウトソーシングする子会社として設立され、今年で50周年を迎えた三菱電機エンジニアリング。グローバル化が進む電機業界で、どのような方向をめざし、その方向に実際に同社を動かしていく人材をどう育てているのか。近藤誠社長に戦略を聞いた。
エンジニアリング事業と自主事業の両輪経営
――御社は、三菱電機グループの中で、どのような事業を展開されておられるのでしょうか?
近藤
当社は、1962年、三菱電機の100%出資により、同社の設計の一部を請け負うエンジニアリング会社として設立され、以来、三菱電機の製品やシステムの設計を担当してきました。現在、売上高の約50%程度が三菱電機向け設計請負事業によるものです。
こうした「エンジニアリング事業」と並び、「自主事業」として、三菱電機以外の顧客からの設計請負や、企画から製造までの全てを自社で手掛け、製品として販売する事業もあります。三菱電機向け事業で培った技術を活かし、独自性のある製品やシステムを開発しています。
たとえば、「ペルチェ冷却方式」という方式を利用して冷やす「電子冷蔵庫」は、一般的な冷蔵庫に比べ音が静かであることから、多くの高級ホテルや病院で利用されています。また、最近では、振動を動力源とすることでバッテリーを不要にした画期的なバッテリーレスセンサーも開発しました。この他、皆さんが普段お使いの製品の中にも当社の技術が入っており、製品名を挙げればわかっていただけるものも多いはずです。
――今年2012年、設立50周年という大きな節目を迎えられたとのことですが、そうした今、どのような人材を求めているのでしょうか?
近藤
当社は、すでに述べた通り、三菱電機の設計を請け負うエンジニアリング会社として設立されました。したがって当初は、三菱電機が考えたスペックを図面に落とす、いわば下請け的な仕事が中心でした。しかし、最近は、創造的な業務の割合も増えてきています。
たとえばエアコンの場合、機能設計は三菱電機が行いますが、構造筐体部分の設計は当社が担当するなど、以前より仕事の幅が広がり、クリエイティブな仕事も増えている。
したがって、当社が今後求めるのは、お客さん(三菱電機)に対し、「こうしたらもっと良くなりますよ」と提案ができるような、アクティブ(能動的)な人材です。アクティブになるには、新しい技術や知識も身につけなければなりませんから、自己の能力向上にも意欲的であることが大切です。
一方、自主事業では、独自でマーケティングから製品の企画、メンテナンスに至るまで行っているので、アクティブであることに加え、事業マインドも求められます。
利益の質、経営の質向上は地道な生産性の改善から
――そうした求める人材像に照らし合わせてみて、御社の現状をどう見ておられますか?
近藤
受け身の仕事が中心だった時代の名残か、残念ながら、まだそうした風土が残っている面があります。したがって、50年を機会に、自分から前に出るような能動的な人材を育てていく必要があります。
独創性をエンジニアリング事業、すなわち、三菱電機製品の開発、設計過程で高めようとしても難しいですし、かといって、自主事業を拡大し過ぎてしまうと経営的なリスクが大きくなります。よって、エンジニアリング事業と自主事業のバランスを取ることが大切です。
ちなみに売り上げは、取引先の構成だけを見れば85%程度が三菱電機グループ向けですが、内容を見ると、単なる請負ではなく、当社の側から提案するようなクリエイティブな仕事が半分を占めるようになってきているのです。ですから、エンジニアリング事業と自主事業の売り上げの割合をドラスティックに変えるより、その中身を質的に変えていくことが重要で、現在、中期経営計画「Quality-up12」の中でも、経営の質の向上に取り組んでいます。