連載 ID designer Yoshikoが行く第64回 紅茶を片手にココロの育成に思いを馳せる
週末の楽しみのひとつが、鵠沼の紅茶専門店ディンブラでのアフタヌーン・ティー。ポットにたっぷり入ったフレッシュなスリランカの紅茶を、ミルクを入れたティーカップにゆっくり注ぎ、焼き立てのワッフルや、クローテッドクリームをふんわりのせたスコーンといっしょにいただく。
あー、今日は休みだぁ~、と肩の力が抜け、頬が緩む瞬間だ。
お店の名前ディンブラは、スリランカ西部の山岳地帯が原産の茶葉にちなんだもの。鮮やかなオレンジ色と、バラの花のような華やかな香りが特徴だ。そのお茶の優しくさわやかな香りはもちろん、ゆったりと流れる時間の豊かさもまた、このお店の魅力。
それにしても若いスタッフの、自然体で家庭的、しかしかなりプロフェッショナルなサービスは、どのように育まれたのだろう?「僕が伝えているのは、日曜日の自宅の居間のように、というコンセプトだけ」というのは、オーナーの紅茶研究家、磯淵猛さん。30 年にわたるディンブラの経営の他、紅茶の輸入販売、ホテル・レストランへの紅茶の技術指導、大手飲料メーカのスペシャル・アドバイザー、一般向けの紅茶セミナー、紅茶の本の執筆、テレビ・ラジオへの出演、さらには営業戦略や商品開発のコンサルティングと、多方面で情報発信しているオーナーだが、スタッフに伝えるのは、「自宅の居間のように……」だけ?「型にはまったサービスマニュアルを押しつけると、自分がすべきことを考えるチカラや楽しみを奪ってしまいますからねぇ」
だから、ヒヤヒヤしても、自分でするほうが速いと思っても、手を出さない。その代わり、きちんと目を配っていることがある。お客様を迎える時のスタッフの目の輝き、ティーポットカバーをかぶせる優しい仕草、手書きのメニューやパンフレットに込められた可愛い工夫……。それらが上手くお客さまに伝わり、お客さまにほめられた時、スタッフが本当に嬉しそうな顔をするのを見て、磯淵さんは自分の信念が間違っていないことを確信する。『お客様がスタッフを育てる』のだ!
実はこれ、磯淵さんが親しくしている紅茶の老舗で学んだことである。話は10 年前に遡る……。