OPINION 2 ものづくり現場における中核的技能者の育成-現状と課題-
ものづくり大国として、世界経済をリードしてきた日本の製造業。だが、長年にわたる日本経済の低迷により、ものづくりの現場が見直されようとしている。労働政策研究・研修機構では、製造業の現状を把握するために、ものづくり現場で中心的な役割を担っている「中核的技能者」に関する実態調査を行った。今回は調査結果をもとにして、「中核的技能者」の現状を伝えるとともに、今後の課題についても示唆していく。
日本のものづくりと中核的技能者
グローバルな市場をめぐる各国メーカーとの競争、製品の主要な市場である欧米あるいは中国といった地域の経済状況の不透明さ、ここ1~2年のうちに急速に進んだ円高、近年のリーマン・ショック、東日本大震災などにより、日本のものづくり企業が直面する経営環境は年々厳しさの度を増している。こうした環境において事業の存続・発展を図ろうとすれば、これまで以上の高付加価値と効率性を並行して実現できる経営が求められよう。
これまで以上の高付加価値と効率性を実現するためには、さまざまな経営資源の活用方法を見直す必要が出てくる。自社の人的資源の価値を高め、より一層の活用を進めることが、多くの企業にとって重要な課題となる。なかでも、付加価値、効率性の源泉となる製造工程に直接関与する人材(技能者・技術者)について、どのように確保し、活用していくかは経営のパフォーマンスに影響すると考えられる。
また、製造に関わる人材のあり方は、単に企業の経営課題として捉えられるにとどまらない。2012 年7月に閣議決定された『日本再生戦略』の中では、今後のわが国の経済運営を支える産業として、エネルギー関連、あるいは医療・介護に関連したものづくりを発展させていくことが謳われている。製造に関わる人材のあり方はその成否を大きく左右すると考えられ、政策課題の対象としての重要性も従来以上に高まると見られる。
では、近年ものづくりに直接かかわる人材には、何が求められ、どのような育成・確保がなされ、何が課題として捉えられてきているのか。
労働政策研究・研修機構では、2011年11月~12月にかけて、機械・金属産業の事業所を対象にアンケート調査を実施した(「ものづくり現場の中核を担う技能者の育成の現状と課題に関する調査(2011年)」、以下「JILPT調査」と記載)。本稿では、実際にものの製造に携わっている技能者、なかでも製造の現場で、中心的な役割を果たし、企業の競争力を担う「中核的技能者」について概観し、今後の育成・確保に向けた取り組みに対しどのような示唆が得られるかを検討していく。
中核的技能者に求めるマネジャーとしての役割
各企業が中核的技能者とみなしているのはどのような人材か。JILPT調査では、「中核的技能者」に、最も求められるのは何かを各企業にたずねている。
この質問に対し、約半数の企業(51.0%)は、「製造現場のリーダーとして、ラインの監督業務や、部下・後輩の指導を担当できること」を挙げている。次に回答が多いのは、「製造現場において、多くの機械を受け持ったり(「多台持ち」)、複数の工程を担当できる(「多工程持ち」)こと」(17. 8 %)になり、「設備改善・改造や治工具製作などを含めた生産工程全般にわたる作業を担当したり、試作・開発・設計に参加できること」(15.0%)が続く。5割以上の企業が、「中核的技能者」にリーダーとしての役割を求めているのに対し、実技的な能力を求める企業は、いずれも2割弱にとどまっている。大企業(従業員300人以上)と中小企業(従業員299人以下)の回答状況を比べると、さほどの違いは見られないといってよい(大企業では先の「多台持ち」「多工程持ち」の回答割合が高く、中小企業では、設備改善や治工具製作などを含む生産工程全般にわたる作業を担当する等の回答割合が、相対的にやや高くなっているという違いは見られる)(図表1)。企業規模を問わず、多くの企業は現場の管理・監督や人材育成を担うことができる「マネジャー型」の技能者を、中核的技能者と考えていることがわかる。
各企業が中核的技能者に必要と考える具体的な知識・ノウハウは、求める能力の方向性をある程度反映している。多くの企業が挙げているのは、「品質管理に関する知識・ノウハウ」(79.3%)や「生産ラインの合理化・改善に関する知識・ノウハウ」(68. 4 %)など、品質向上や生産性改善につながる「管理」に必要な知識・ノウハウである。これらに比べると機械加工や設計に関する知識・ノウハウを求める企業は少なくなる。