Opinion 1 生産現場をその目で観察して「問題発見力」を高める支援を
現在、日本企業のものづくりを支える現場人材の構成と育成は、どのような課題に直面しているのだろうか。急速に生産拠点のグローバル化が進む中で、今後重要なのは、現場に深く入り込み、自力で現場を変えていくリーダーであるがそのようなリーダーの育成には、どんな視点を重視すべきだろうか。自身が現場に入り込んで研究を行ってきた河野宏和教授に、企業、人事に求められる環境づくりと取り組み姿勢について聞いた。
ものづくりの現場は今どうなっているか
「ものづくりを支える中核人材」を、生産ラインの職長、班長クラスと捉えると、日本企業には、極めて優れた人が多くいる。もちろん、そうした人材の高齢化と技能伝承は多くの企業が苦労している課題であるが、人材が不足しその育成が急務という指摘はあまり的確ではないだろう。
QCD(品質、コスト、納期)を守って顧客に製品を提供するだけでなく、責任を持って部下を守り、さらに改善活動によって現場を向上させていく能力と意欲を併せ持つ――決して派手ではないが、こうした人材がものづくり企業の屋台骨を支えている。
しかし、彼らがその能力を充分に発揮し、実力に見合ったポジションに就いているかというと、残念ながらそうは思えない。人事制度という壁もあるが、それ以上に、改善能力に優れた人材を評価すべき本社サイドの人たちの考え方と現場の間に、より大きな壁があるのではないだろうか。
ものづくり企業において実際に付加価値を生み出しているのは生産現場である。しかし本社の管理職層や人事担当者、また企業の経営層の多くは、書類や会議を中心としたデスクワークに重点を置いている。生産現場に自ら足を運ぶことなく、本社のオフィスで物事を決めていくやり方には疑問を感じる。
改善活動に熱心なある企業では、設備投資関連の役員会を、現場で対象設備を囲みながら開いている。実際に設備を目にすると、不要な機能や過剰なスペックが見えてくるうえに、役員会用の書類は全く必要なくなる。私が第一に指摘したいのは、ものづくりの中核人材について考える時、こうした現場重視の姿勢で取り組んでいるかということである。
もう一つ、私が日頃から重要だと考えているのが「長期的な視点」である。たとえば、生産現場での改善活動の多くは、短期的には成果が見えにくい。しかし、不良品や設備停止を限りなくゼロに近づけることで、長期的に生産性が向上し、結果として販売能力が向上し、それが受注増や新規受注につながり、利益を向上させる。
残念ながら、近年では、欧米的な経営スタイルの影響もあって、四半期ベースといった短期的視点に重心が置かれるケースが多い。根本的な体力、体質の向上よりも、目先のコスト削減などに視線を向けがちな管理職が増えている。
雇用環境もまた、ものづくり人材の育成にとってマイナスに働いている。生産部門自体、あるいはラインの一部を外部の業者に委託するメーカーが増えている。だが、こうした現場では、メーカー側は、委託会社を通して指示や提案を行わねばならない。その間に生産品目が変わってしまえば、現場は改善の貴重な機会を失い、職長や班長たちも自らの改善能力を生かせなくなる。「自分が考えた改善案を実践し、次なる問題の解決に向けてさらに勉強する。やがて、資材調達、営業、情報システムといった関連業務にも関心が向き、広範な知識や実務経験が身につく。結果として、大人数を束ねるリーダーシップが発揮できるようになる」という長期的な人材育成の道筋も、結果的に失われてしまうのである。
企業には人材を育成する責任がある
今後のものづくり人材の育成に思いを馳せる時、他にも大きな不安要素があることに気づく。それは、パートや派遣社員など、外部化された人たちの育成という問題である。