CASE.1 出光興産 働きがいが高まる組織風土 上司と部下の信頼関係がつくる 制度とコミュニケーションの相乗効果
やりがいを感じる従業員の割合=76.9%、新卒者の入社3年未満の離職率=6.7%――いずれも出光興産の2011年度の調査結果である。これほど多くの従業員がやりがいを感じ、離職率の低い職場は、どのようにして実現されているのか。その答えは、本人と上司が何でも話し合える、深い信頼関係の醸成にあった。
「仕事の報酬は仕事」仕事を任せて育てる
出光興産では、全社員が毎年人事部に提出する「活動目標記録」の中で「やりがいがある」と答えた社員の割合と、入社3年未満の離職率を、従業員満足度の目安としている。やりがいを感じる社員の割合は、過去5年にわたりほぼ75%以上を推移しており、離職率は多少上昇傾向にはあるものの、2011年度は6.7%にとどまっている。
やりがいを感じる社員の割合が高く、離職率が低い理由について、人事部主任部員の古池勝義氏はこう語る。「当社の創業者である出光佐三は『仕事の報酬は仕事』だと語っています。仕事を一生懸命やる人間には、報酬として、より高い能力が発揮できるような仕事を与える、という意味です。この考え方は現在まで受け継がれており、仕事のできる社員には、多少難しそうであっても新しい課題をどんどん与えていきます。こうした仕事の与え方が、社員がやりがいを感じる1つの理由ではないかと思います」
人事部教育課長(兼)研修センター所長の澤浩一氏も、自身の過去を振り返りながら次のように話す。「入社後の早い段階から仕事を任せてもらえますし、上司もしっかり見守ってくれる。それに、互いに助け合うという職場の一体感もある。こうした、先輩から代々受け継がれてきた企業風土がやりがいにつながっているのだと思います」
会社の方針として、事務系で採用される社員の7割程度は、配属早々、販売店(ディーラー)担当を任され、担当する販売店の販売計画から人事、経営に至るまで、あらゆる面で責任を持たされる。
「最初にこうした仕事を任されることで、商売の原点を知ることができます。自分が動かなければ何も変わりませんし、自分が動けばそれなりに結果が出る。販売店さんの成績が良くなれば嬉しいですし、次はこんな提案をしてみようという意欲も湧きます。顧客に直に会うことで、世の中に役立っているという実感も持てる。任せる上司の側は、本当は不安なのですが、そこは手を出さずに、脇でしっかりと見守り、必要なフォローをします。そして、本人に自信がついてきたら、さらに難易度の高い課題を設定する。その繰り返しで成長させていくのです」(澤氏)
その結果、できる人に仕事が集中することにもなるが、「仕事の報酬は仕事」という考え方が定着しているため、それを誇りに感じる社員が多い。出光興産では事務系採用の社員に対し、このように実際の商売を通じた育成を長年にわたり続けてきた。「我々もそのように育てられてきました。当時は重荷に感じることもありましたが、振り返ってみると、それが成長の糧だったと思います」(古池氏)
寮生活やオフタイムでの親睦でコミュニケーションを深める
一方、同社の中で最も人数が多い製造部門では、ベテラン世代が大量に退職する時期を迎えており、人数の減少をカバーするために若い世代を多数採用している。そのため、技術習得を従来の倍近いペースで進めざるを得ず、ベテランが若手に対してマンツーマンで指導することも難しくなりつつある。
速いペースについていけずに脱落する者が出ないように、若い世代の育成をフォローしているのが、1~2年上の先輩社員たちだ。製油所・工場の近くには独身寮があり、寮生活の中で、折に触れて仕事のやり方や社会人としてのあり方などを教えているのである。最近の寮は以前と異なり、個室でプライベートが確保されている。それでも、談話室を用意したり、先輩たちが新人に積極的に声をかけ、できるだけ孤立者をつくらないよう親睦を深めるように心がけている。