Column 2 データに見る WLB施策の効果と注意点
「働きやすさ」の追求に欠かせないWLB施策。これまで制度のメニューづくりや整備ばかりが注目されてきたが、近年はWLB施策が企業の生産性向上に寄与するという研究結果も出てきた。その一方で、長期の制度利用によりキャリアアップが難しくなる可能性を指摘する声もある。松原光代氏にワーク・ライフ・バランス施策の現状について伺った。
本格的になる仕事と生活の両立
日本では、2007年12月に「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定され、仕事と生活の調和を図る動きが本格化してきた。従業員が多様なライフスタイルや価値観を持って活躍するためには3つの取り組みが必要である。「ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)」、「ダイバーシティ」、「両立支援」である。これらの関係を図に示すと図表1のようになる。
「両立支援」とは仕事と家庭の両立を支援すること。なお、それをファミリー・フレンドリーということもある。主に支援の対象となるのは、育児と介護。この2つにかかわる主な施策としては、短時間勤務制度や休業制度、フレックスタイム、積立休暇、看護休暇、在宅勤務制度が挙げられる。今後は、30代は子育て、40代以降は介護と従業員の多くに両立支援が必要になる。
「WLB」は育児や介護に加え、社会貢献や自己啓発といった領域にまで及んで、仕事と生活の両責任を果たすことをめざす。短時間勤務や休業など、活用する制度は両立支援と同じでも、その利用目的が広がることになる。「WLB」の実現には上記の制度整備が重要だと思われがちであるが、東京大学の佐藤博樹教授は、制度が利用できるようになるには、多様な価値観・働き方を受容する職場風土の醸成と、恒常的な長時間労働を前提としない職場マネジメントが不可欠であるとする。
仕事以外にすべき(やりたい)ことを持ち、多様な働き方を希望する従業員が増えるに当たり、まずは従業員の仕事に投じる時間に「制約」があることを前提に職場運営のあり方を見直さなければならない。つまり、従業員のWLBの実現には、多様な人材を活用するための「ダイバーシティ」が必要なのだ。次にこうした施策が、企業の業績にどのような影響を与えるのか見ていく。
間接的に企業業績向上に寄与
法政大学キャリアデザイン学部・武石恵美子教授が編著である書籍『国際比較の視点から 日本のワーク・ライフ・バランスを考える――働き方改革の実現と政策課題』(ミネルヴァ書房)に、WLB施策と企業業績に関するデータが掲載されている。慶應義塾大学商学部商学科准教授・山本勲氏と同大学産業研究所専任講師の松浦寿幸氏がまとめた、WLB施策が全要素生産性に与える影響についてのグラフだ(図表2)。
全要素生産性(Total Factor Productivity、以下TFP)とは、企業の生産性を算出し評価する方法の1つで、労働力や資本を含む全ての要素を投入量として産出量との比率を示したものだ。ここでは、同一の企業の財務状況を景気といった変動要素を排除しながら観察するため、1991年度から調査されている「企業活動基本調査」(経済産業省)の、過去約20年分の財務データと、2011年に実施したアンケート調査を用いて検証。アンケート調査では労働時間やWLB施策の導入の有無や年度などを尋ねている。この図を見ると、TFPへの影響が大きかった要因として以下の4点が挙げられている。
1.中堅・大企業(従業員300人以上)である2.労働保蔵(余剰労働力)の度合いが大きい