第21回 もしお坊さんがマネジメントを学んだら 超宗派の僧侶たちが学ぶ「未来の住職塾」 松本紹圭氏 未来の住職塾 塾長|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
「未来の住職塾」とは、お坊さんたちがお寺のマネジメントを学び、「お寺の未来」を考える「お坊さんの学校」です。昨年始まったこのプログラムは話題を呼び、今年も多くの若手僧侶が全国から集まっています。伝統仏教のお坊さんたちが「マネジメント」を学ぶ理由とは?
「お坊さんたちが学ぶ学校」と聞くと、作務衣姿の僧侶たちが早朝から掃除をしたり、読経をしたり……といった修行の場をイメージしますが、「未来の住職塾」は、「現代社会におけるお寺の運営と住職の役割を学ぶ超宗派の人材養成プログラム」。仏教の教義を学ぶ場ではなく、宗派を超えた僧侶が集まってお寺のマネジメントを学ぶセミナーです。年間5日間のカリキュラム(次ページ図参照)となっており、内容も「お寺の『顧客』を探求する」「寺業計画の発表」などまるで経営者向けセミナーのようです。講師は、インドの大学でMBAを取得した、塾長の松本紹圭さんと、コンサルティングファーム出身の井出悦郎さんが務めます。この「未来の住職塾」は2012年に第1期が行われ、第2期の2013年度は全国6都市10会場で開催、130名以上の方々が受講予定。受講生の平均年齢は30代後半。一般企業では、ミドルクラス、といったところですが、お寺の世界では「若手」とのことです。一体なぜ、若手僧侶たちは、この「未来の住職塾」に集まっているのでしょうか。そして、この「未来の住職塾」で、どんなことを学んでいるのでしょうか。「未来の住職塾」を立ち上げ、自ら講師も務める塾長、松本紹圭さんを浄土真宗本願寺派光明寺に訪ねました。
新卒で僧侶になる!?入門から得度まで
光明寺はオフィスビルが立ち並び、ビジネスパーソンが行き交う東京・神谷町の一角に佇むお寺です。法衣姿で穏やかに我々を出迎えてくださった松本さんですが、このお寺がご実家というわけではなく、「私は、こちらの光明寺に僧籍を持つ僧侶というだけで、どこかの寺の跡継ぎ息子というわけでもないんです」。一般家庭で育った松本さんは、なんと東大卒業後、新卒で僧侶になったといいます。「宗派によりますが、私のように、お寺の跡継ぎでなくても、仏教系大学に通わなくても、僧侶になることはできるんですよ」では、どうすれば、伝統仏教のお坊さんになることができるのでしょうか。「プロセスは宗派によってさまざま」とのことですが、浄土真宗本願寺派の僧侶である松本さんの場合、まずは末寺(一般の寺)である光明寺の住職に弟子入りを願い出ました。松本さんは、「学生時代の友人が、光明寺に下宿していて、何度も訪ねたことがあった」という“ご縁”で、光明寺への入門を決めたそうです。弟子入りが許された後は、お寺の仕事を手伝いながら、教義や読経、所作などを学びます。その後、住職に認められ、試験にパスすると、京都・東本願寺での「得度習礼」という10日間ほどの研修を受けることができます。「得度習礼」は僧侶としての基礎知識や、儀礼、作法などを学ぶもので、これを無事に修了すると、「得度」を受けて剃髪し、僧侶となります(ただし、浄土真宗では、得度後の有髪も許されているそうです)。得度を受ければ、僧侶としての活動ができるようになりますが、寺の「住職」となるには、「教師」資格を取得する必要があります。その他にも「布教使」「開教使」など専門に応じて資格が多々あるとのことです。