巻頭インタビュー 私の人材教育論 ダイナミックに柔軟に体制を変えてコラボするサッカー型組織をめざす
高度にネットワークされたプロフェッショナルの集団――従来の階層型組織とはかけ離れた企業風土を持つシスコシステム。コラボレーション・アーキテクチャーの構築、企業カルチャーの浸透により、高い価値を顧客にもたらす仕組みを生み出した。その強みの源泉は、「企業風土づくり」にあったという平井康文代表執行役員社長に、その思いを聞いた。
これからの企業はサッカー型組織であるべき
――貴社は企業カルチャーの浸透や独特の組織づくりによって人材を育成し、スピーディな組織マネジメントを実現していると伺っています。まず、どんな人材づくりを目標としているかについてお聞かせください。
平井
最初にお断りしておきますが、弊社では「人材教育」を「人財共育」と捉え、トップ、リーダー、一般社員がともに育ち、育て合う企業でありたいと考えています。
これを前提としたうえで、日本の産業界において今、求められている人財とは、グローバル人財、そしてダイバーシティ人財でしょう。弊社の場合ももちろん同じです。
さらにこれらに加え、求められる要件として5つの単語で始まるコンピテンシーモデルを定義しています。
それは、C―コラボレーション(Collaboration)、L―学習(Learn)、E―実行(Execution)、A―加速(Accelerate)、そしてD―破壊(Disrupt)。これらは全世界におけるシスコの“ リーダーシップコンピテンシー”であり、「C-LEAD」と呼ばれています。採用面接、業績評価、幹部候補の育成と、あらゆるシーンで活用されます。
まず「Collaboration」ですが、事業環境が変化、拡大していく今の時代、「俺が、俺が」といった個人プレーでは満足な仕事はできません。単なるコミュニケーション(対話)を重ねるだけでもダメ。その次のステージ、つまりさまざまな人との協業、協調が必要です。
そして、切磋琢磨しながら自ら学び、周囲に学ばせる精神、向上心(Learn)も大切です。また、計画を単なる計画に終わらせず実行(Execution)し、戦略を加速する力(Accelerate)がなければなりません。
最後に破壊(Disrupt)ですが、これは「現状を打破する力」を指します。人はとかく安全地帯に安住しがちなもの。しかし、それではイノベーションは生まれてこない。常に「アウト・オブ・ボックスシンキング」―― 自分の小さな箱から外に出る思考でステップアップしていかなければなりません。
――「コラボレーション」が最初なのですね。どんなコラボレートをしていく組織づくりを実践しておられますか。
平井
我々がめざすのは「サッカー型組織」です。野球では、先攻と後攻が交互に入れ替わりますよね。スリーアウトになって初めて攻守が交代する。しかも、ベンチにいる監督のサインに従って動きます。その意味で、野球はいわば非同期通信型スポーツといっていいかもしれない。
しかも、メンバーはそれぞれ役割を担っており、役割を超えてチームに貢献することはない。たとえば、キャッチャーがライトフライを捕りにいくことは、まずあり得ません。
一方、サッカーはあの広いピッチの中で11人の選手が、ダイナミックにフォーメーションを変えながらボールをつなぎ、攻撃を行います。ゴールキーパーがシュートすることさえある。そして、いったんボールを奪われたら、今度はすぐ守備に回る。このダイナミックなコラボレーション、そしてリアルタイム性こそがサッカーの特徴といえるでしょう。
これからの時代は、階層構造型の組織、「コマンド&コントロール」で動く組織ではなく、サッカーのように、全員が自律的、かつ臨機応変に協働できる組織こそが望ましいと思います。
弊社の「バーチャルチーム」などは、まさにサッカー型組織の真骨頂といえます。アカウントマネジャー、担当SE、サービス営業などのプロフェッショナル人材が、高度にネットワーク化されたチームで協働し、部門や地域、国を越えたコラボレーションを実現します。
そこでは、ポジションにかかわらず誰もが自由に発言、議論し、そして挑戦できる。個人が持つ知識と経験をみんなで共有することで、自由で新しい発想、お互いを高め合う環境が生まれてくるのです。