独自性を高め、 価値創造を実践する経営とは
社団法人日本能率協会 経営研究所
日本能率協会(JMA)では、日本企業の経営課題に関する調査を
1979年から継続して行っている。
2010年度は全国の主要企業4000社(有効回答632社)を対象に実施。
今回は、他社との差別化ができている「高独自性企業」ほど
売上げ拡大に成功していることに着目し、
そのマネジメント手法を「低独自性企業」と比較して分析した。
2008年のリーマンショックに、企業業績は大きく影響を受けた。回復の一途をたどっているとはいえ、まだその業績回復も道半ばである。そのような中、今回は2010年7月から8月にかけて実施した「第32回 当面する企業経営課題に関する調査」の内容をもとに、経営者の課題認識がどのように変化したのかを見てゆきたい。調査では経営課題として例示した20項目から、「現在」ならびに「将来」の重要課題として3つを選択してもらった。
「収益性向上」「シェア拡大」が全般的な経営課題
まず「現在の経営課題」の5年間の推移を振り返ってみる(図表1・図表2)。昨年と同様に今年も「収益性向上」が第1位(57.6%)、「売り上げ・シェア拡大」が第2位(55.9%)となっているが、2009年に8.0ポイントあったこの2つの差が1.7ポイントに縮まったことがわかる。
また、「売り上げ・シェア拡大」は、2009年に前年比14.7ポイント急上昇し、2010年も前年比3.1ポイント上昇している。この2年間で合計で17.8ポイントも急増しており、リーマンショック以降、企業が売り上げ・シェア拡大を優先的課題と認識していることがうかがえる結果となった。「技術力の強化」を見ると2009年に前年比2.8ポイント上昇して8位(13.0%)、2010年には前年比4.4 ポイント上昇して5位(17.4%)と同時期に上昇していることから、収益性向上や、売り上げ・シェア拡大の具体的施策として技術力の重要性が高まっていることがうかがえる。
将来(2013年頃)の課題としては1位から4位までは、現在(2010年)と変わらない。注目すべきは「グローバル化」が現在の10位(10.6%)から9.3ポイント上昇し5位(19.9%)に浮上していることだろう。その半面、「現場の強化(安全、技能伝承など)」は現在の7位(13.3%)から14位(6 . 8%)へと大きく順位を下げている。
人事・教育領域の課題はミドルの能力向上
以上が経営全般に関する課題の概要であるが、この調査では領域別の課題についても調査をしている。
人事・教育領域における課題(図表3)の、回答上位項目では「管理職層のマネジメント能力向上」のみが2008年以降も上昇傾向にある。2010年は64.9%と、その他の項目を大きく引き離す結果となった。
その背景には大きく2つの事象が考えられる。
1つには、1990年前後に大量に採用した社員が現在ミドルマネジャーとして厚い層を成し、企業の成長を支える屋台骨としての働きを期待されている点である。
そして、もう1つは組織体制の変化による役割の多様化である。現在の企業はIT化が進展し、意思決定の迅速化が目標とされるなど組織のフラット化が大きく進んでいる。それにより、1人のミドルマネジャーが多くの部下を管理・サポートしなければならなくなった。また、自部門を管理するだけでなく、自らがプレイングマネジャーとなり、業績向上に貢献する役割も負うことが多くなっている。
これらの背景により、現在のミドルマネジメントの役割は複雑化かつ多様化しており、トップの課題認識が非常に高くなっていることがうかがえる。
その他で変化があった項目として、「賃金・評価・昇進制度の見直し、定着」(32.8%)を挙げられる。2007年(52.8%)以降、2008年(43.0%)、2009年(32.9%)とポイントを下げ、過去に改訂した人事制度が定着化した傾向がうかがえる。
また、「次世代経営層の発掘・育成(早期選抜教育など)」がわずかだが上昇し、「残業時間の適正管理」がポイントを下げている傾向から、人事・教育領域においては短期的な合理化施策から長期的な人材開発に取り組む兆候を見てとることができる。
独自性を発揮する企業のマネジメント施策とは
これまで見てきたように、多くの企業にとって、現在の課題、および将来の課題は「収益性向上」「売り上げ・シェア拡大」であることがわかった。そこでこれらに結びつく効果的なマネジメント施策は何かを分析するために、今回の調査では、後述する「高独自性企業」と「低独自性企業」に着目し比較した。
まず「収益性向上」「売り上げ・シェア拡大」を確認する指標として、企業の過去3年間におけるROS(売上高営業利益率)とROA(総資産営業利益率)を用いた。これらの指標が、競合他社と比較して、上回っている企業を、「収益性向上」「売上げ・シェア拡大」において、成果を上げている企業とした。
次に、企業の事業における「独自性」を測るために、企業の「独自性」と「強み」の程度を過去3年間の実績に基づいて競合他社と比較した場合(図表4)、以下の4つ――「どの事業もかなり差別化ができていると思う」「差別化できている事業のほうが多い」「差別化できていない事業のほうが多い」「全体的に差別化できていない」のどれに当てはまるかを聞いた。この中で、前者2つに回答した企業群を「高独自性企業」、後者2つに回答した企業群を「低独自性企業」とし、それぞれから得られた回答結果を比較した。
その結果、独自性発揮のあり方が、ROSとROAに有意に正の影響を与えることが確認された。すなわち、「高独自性企業」であるほど、「収益性向上」「売り上げ・シェア拡大」に成功しているといえる。
そこでそのマネジメント施策を、「低独自性企業」と比較・分析することで、「収益拡大」と「売り上げ・シェア拡大」に有益なマネジメント施策を明らかにした。なお、分析の方法としては、「高独自性企業」と「低独自性企業」との間で、諸々のマネジメント施策への取り組みに有意な(平均値)差があるのかを検討し、平均値の差の検定(t検定)を行った。