企業事例3 日本イーライリリー “プレイング”マネジャー禁止 部下と上司の成長が生む好循環
「働きがいのある会社」調査で6年連続上位ランキングに名を連ねるなど、組織づくり、人づくりには定評のある日本イーライリリー。そんな同社の人事施策の中で、特に際立つのが「プレイングマネジャー禁止」というもの。育成こそミドルマネジャーの本分、といい切る同社の育成方針と仕組みを取材した。
営業課長教育は新人時代から始める!
世界125カ国以上で事業を展開するグローバル製薬会社、イーライリリー。その中で日本イーライリリーは、米国本社に次ぐ規模を持つ一大拠点だ。ニューロサイエンス領域、糖尿病・成長障害領域、筋骨格領域、癌の領域において、さまざまな「世界初」の医薬品を世に送り出している。
Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)が行った2012年「働きがいのある会社」調査では第11位に、製薬業界では第1位に選ばれている同社。驚くことに同社のセールス部門には、プレイングマネジャーが存在しないという。
約170名いる営業課長全員が、マネジャーとしての業務に専念できるとは、いったいどういうことなのか(以下、本文「課長」は全て「営業課長」を意味する)。「“営業課長の役割はMRの育成に尽きる”という考えのもと、課長は全員マネジャーの役目に徹しています。良いMRはマネジャーがつくる。ですから、当社では課長の育成に徹底的にこだわります」
営業本部営業人財開発部 統括部長の近藤平三郎氏はこういい切る。
優秀なセールスリーダー(営業課長)を育てるための教育は、なんと3 年目以降の新人時代からスタートする、というから驚きだ。
全部で7段階あるSLDP(Sales LeaderDevelopment Program)という教育プログラムのうち、1~3は選抜MRが対象だが、営業課長に必要となるスキルの習得や役割の学習などを行う。4、5は営業課長向けのプログラムで、部下育成のための知識、スキルにフォーカスされている。「課長のコンピテンシーモデルは当社独自の『DSMモデル』に集約されていますが、5つの項目のうちの2つはMRとの関係強化や信頼強化、育成にかかわるもの。それだけ、課長にとってMRの育成は重要な任務と位置づけられているのです」(近藤氏、以下同)
部下の営業に2日間密着同行
日本イーライリリーでは、営業課長は10 名程度のMRのマネジメントと育成を行うことになる。多くの企業と同じように、同社でも、かつては課長がプレイングマネジャーとなったこともあった。「欠員が出て、人手が足りないと自身が穴埋めすべく営業に回り、部下の育成に専念するのが難しかった時代もありました」
だが、こうした状況を放置しておいては、MRの成長や業績の向上は望めない。そこで2009年後半から営業課長の営業活動を一切やめさせ、人材を育成しつつ適材を適時に配置できる体制へと転換した。