巻頭インタビュー 私の人材教育論 正しい倫理と自己変革が社会に貢献する人格と組織を育む
革新的なサービスにより、設立から10年あまりでネット金融最大手に成長したSBIホールディングス。2008年には、SBI大学院大学を設立、人材育成の分野にも進出した。同グループを率いる北尾吉孝社長に、人材に対する思いを聞いた。
何時も才より徳で人を選ぶ
――会社設立から13年、御社は、規模拡大から経営体質を強化する時期に移っています。新しいステージの経営戦略に照らし、どのような人材を求めているのでしょうか?
北尾
私どもは、13年前に会社をスタートさせた時から、人の採用については、基本的に「才より徳を重視する」ということを言い続けてきています。
人間の才(能力)というのは、もちろん多い少ないは確かにありますが、その差は天から見れば微々たるもの。仏教でいうところの「賢愚一如」、つまり、天(神、創造主)から見れば“賢いのも愚かなのも同じ”なのです。
才で人を採用すると、才が徳と相まっていればいいのですが、往々にして才が勝ち過ぎ、徳が薄い人が結構いるのです。小さい頃から人よりちょっと勉強ができ、また、大人になってからも仕事が他人より少しできたりすると、傲慢になったり高慢になったりしがちです。
また、才がある人にありがちなのは、努力を惜しむことです。普通の人は、わからないことが多いために努力する。才がある人が一読してわかったものと、才がない人が努力してわかったものとでは、結果としては同じかもしれませんが、そこまでのプロセスにおいてどれだけ努力したかにより、人間的な違いができてきます。
そして、徳性が高い人の周りには、自ずと徳性が高い人が集まってきます。論語に、「徳は孤ならず。必ず隣あり」という教えがある通りです。また、アメリカの鉄鋼王カーネギーの墓にも、「己より優れた者を周りに集めた者、ここに眠る」と書かれています。多くの人がカーネギーの人間性に魅かれ、彼を支えたからこそ、多くの鉄鋼業社の中で最も成功を収めることができたのです。カーネギーは、事業で得た財産を社会のために惜しげもなく差し出しました。そうした行為からも、彼が徳性の高い人だったことがわかります。
ですから私も、自分の周りにどれだけ徳性が高い人を置くかということに腐心しているのです。
―― 厳しい経営環境下で目標を達成するためには、徳よりも才を重視してしまうことはないのでしょうか?
北尾
目標を達成するために正義を犠牲にするということはありません。利益というのは、義を貫かなければ決して得られないと思います。
論語に「君子は義に喩り、小人は利に喩る」という言葉があります。君子は、正しいか否かで物事を判断するが、小人は、儲かるか否かで判断するという意味です。
目標というのは、「一定の経済環境が続くとして、このぐらいの会社にします」ということです。私どもも営業利益1000億円という目標を数年前に掲げましたが、その後、パリバショック、リーマンショック、ギリシャショックがあり、欧州債務危機がありと、目標達成の前提条件が崩れてしまった。
しかし、ここで大切なのは、“経済状況が以前のようなら営業利益1000億円を達成できる企業体質をつくり上げる”ということです。
私どもは、厳しい経営環境の中でも、守りに徹していたわけではありません。たとえば、近年日本の株式市場は他国に比べて弱い一方で、アジアをはじめとする新興国のマーケットは強いことから、当社は、成長が見込まれる新興国のマーケットに、2005年以来積極的に進出してきました。あるいは、日本のマーケットが弱い中で、収益源を多様化する取り組みを進め、証券業では株式の委託売買手数料への依存率を下げてきました。
経営環境が良くない中でも、積極的にさまざまな対策を講じることで、経営体質を強化してきたのです。
企業経営では、短期的には儲からないけれど、将来のことを考えるとやっておくべきだということがたくさんあります。経営者は、中長期的な視点で何に取り組むべきかを考えないといけないのです。