人材教育最前線 プロフェッショナル編 現業や、外部を巻き込んだ研修でものづくりの勘所をつかませる
商業施設や博物館、美術館などの文化施設、イベントなどの空間づくりを行う丹青社。松村磨氏は、これまで文化施設やホテル、テーマパークなど大型案件を数々担当。その経験から現場感覚を生かした人材育成を企画、実践している。2005年から新入社員育成のために什器を作成する研修を始動、2009年には外部デザイナーも巻き込み、「人づくりプロジェクトSHELF制作研修」へと発展させる。この他、ショップ案件を新入社員とともに受け持ったり、横断的なプロジェクトにアドバイザーとして参加するなど精力的な活動を行う。そうした経緯と人材育成への思いを聞いた。
博物館の空間づくりに魅せられ丹青社へ
丹青社は、キャリアごとの研修を行う人事部とは別に、現業の仕事とリンクさせながら教育施策を行う人材企画室を設置している。室長の松村磨氏は、ここで新入社員が一流デザイナーや職人と協働でシェルフ(棚)を作る「人づくりプロジェクトSHELF 制作研修」を企画するなど、斬新な人材育成策を展開する。
氏は、もともと現場で大型案件をいくつも担当したバリバリの制作職だった。入社のきっかけも、文化施設である博物館の空間づくりがしたいと思ったからだ。
「 大学では仏像を研究し、その後、中国に留学していました。博物館に行く機会も多く、そこにかかわれる仕事がしたいと思うようになったのです。そんな時、丹青社の会社案内に『たばこと塩の博物館』が載っているのを見つけました。ここの、展示物の周りをぐるりと見られる設計が話題になっていたこともあって、自分もこんな文化空間をつくれたらと思い応募したのです」
入社後は制作部に配属。その当時、松村氏は会社にものづくりを心底好きな人たちが集まっていることが、うれしかったという。
「入社2 ヵ月目の頃、図面を書いていると後ろに知らないおじさんが立っている。机をのぞき込んでは『ここはこうしたほうがいい』と意見してくる。誰だろうと思っていたら、実は創業者である社長(故人)だったのです。社内にはこんな、本当にものづくりが好きな人がいっぱいいましたね」
入社6 年目には制作管理専門の子会社へ出向。ここで初の大型物件であるホテルの空間づくりを経験する。「会社としても当時まだホテルの実績が少なかったので、力が入っていました。制作は大きな施工会社にまとめてお願いするのではなく、金物は金物屋さんに、木工は木工屋さんと分けてお願いしていました。そうした現場の方たちとの仕事がもう、とても楽しくて、遅くまで頑張っていました」
入社11年目で本社に戻り、制作統括部で課長に昇進。ここで念願だった文化施設を担当することになる。福井県児童科学館だ。
「大きなプロジェクトでしたが、現場代理人(責任者)を担当しました。それまでは1人か2人の現場。ここで人数が増え、若手と仕事をすることになりました。人を育てることを意識したのはこの頃からですね」
その後、公共空間制作部に異動し、2000 年には特定プロジェクト室で専任課長へ。ここで大型テーマパークのサイン(看板)工事を担当する。
「たった1年2ヵ月の間で、2万7000個ものサインと1万2000メートルものネオンを造りました。大変でしたが面白い現場でした」