連載 金井壽宏の「人勢塾」に学ぶ。試す! 人と組織の元気づくり 第 5 回 家族療法と統合的介入法
成熟社会。正解のないビジネス現場。社内のコミュニケーション不足――これらの課題に、即効性のある薬などないことは、誰もが感じているだろう。この状況に風穴を開ける術は、全くないのだろうか?その問いに挑むのが、神戸大学で金井壽宏先生が主催する第4期「人勢塾」。本誌では、「人勢塾」全10回の授業をレポート。施策1つで問題を解決するのではなく、組織全体へ多様なアプローチをする。そんな「組織開発」の手法を学び、ぜひ現場で試していただきたい。
臨床心理学を組織変革に活かす
会社の規模にかかわらず、組織変革には個人の変革が必要である。「個人が変われば組織が変わり、ひいては日本が、地球全体が変わる。地球規模の変革も、原点は個人です」と金井先生。今回は、「個人が変わる」支援として代表的な学問「臨床心理学」を扱うべく、統合的心理療法研究所所長・平木典子先生をゲストとして招いた。
平木先生は、ミネソタ大学でカウンセリング心理学を専攻。キャリアカウンセリングも学んで帰国した。現在は、「家族療法」「統合的心理療法」の専門家として活躍。平木先生をお招きした理由を、金井先生はこう語る。「個人が変わらない限り職場は変わらない。一方で、この人を支援したいと思っても、この組織のままだったら変わりようがない、という場面もある。平木先生が実践する『家族療法』は、心の病に対処する時に『家族そのもの』を支援することが大事だ、という動きから生まれたもの。また先生は、複数ある臨床心理学の諸理論を統合して使うという立場でお仕事されている。組織開発のご専門ではありませんが、個人や職場が変わる、ということにつながるお話をいただけるはずです」
「統合」で新しい視点を生む
平木先生が実践する「統合的心理療法」とはどんなものだろうか。「この世に心理療法の理論は400以上あるそうです。ところが、80 年代後半から『どの理論が一番良いのか』という議論が始まり、結果『統合』へ向かう動きが生まれました」(平木先生)
臨床心理学は、1900 年頃に生まれた若い学問。フロイトが世に出た頃だ。彼は、著書『夢の分析』で「『人の心は病む』、それは『記憶が病む』からだ」と論じている。人はその体験を「どのように記憶しているか」で、悩みの深さが変わるというのだ。「ですからフロイトは、『モノの見方を変える手伝い』という治療をしました。その人の自我の確立を支援して、モノの見方の変化を促すのです。これは『内省中心』の個人療法です」。50 年代になると、それに反論が出て「行動療法」が誕生する。「心の内は見えないが、行動は観察できる。適切な行動を新たに学習する助けをすることで、問題解決を図ろう」という考え方で、これは「行動中心」の心理療法である。「内省中心」と「行動中心」の心理療法は現在でも活用されているが、その後に登場する「家族療法」は、「関係性」に焦点を当てるため、前者よりも会社組織に活かせる考え方ではないだろうか。「社員一人ひとり」はもちろん、「組織内の関係性」にも目を向けて、組織変革の糸口を見つける。そんな視点で読み進めてほしい。
Live Report
全10回の5回目。組織開発、人材開発にかかわる際にベースとなる「臨床心理学」を学ぶ半日。講義が中心だったが、平木先生のテキパキした語り口調でテンポ良くすすみ、あっという間に過ぎていった。