企業事例3 博報堂 “粒違い”だから5Sもそれぞれ。万全の体制を用意し、選ばせる
顧客に他にはないアイデアを提供するため、粒揃いではなく“粒違い”の人材を育成することを旨とする博報堂が、2005年に開校したのが「HAKUHODO UNIV(. 通称:博報堂大学)」だ。そこで行われているバラエティー豊かなカリキュラムの中で、特に中堅社員の人材育成に深くかかわる2つのプログラム群を中心に、会社側の支援を人材開発戦略室に、成長実感や、日々の仕事からの学びを、中堅社員自身に聞いた。
多彩なプログラムを通じて“博報堂のプロ”を育成
博報堂の中堅社員育成に深くかかわる2つのプログラム群とは、入社8年目までの社員が対象の「構想ベーシックス」と、8年目以降の社員たちが受講する「ビジネス構想プログラム」である(図表)。
前者の「構想ベーシックス」は、“博報堂のプロ”に欠かせないスキルやナレッジを身につけることを目的に、年次ごと年1~2回に行われる必修プログラム。その核となるのは、同社が80年代から標榜している“生活者発想”という概念である。人材開発戦略室部長 渡邉啓氏はこう説明する。
「私たちは人々のことを、単にモノを受け取るだけの消費者ではなく、自らのライフスタイルをデザインする“生活者”として捉えています。そして“生活者”を一番良く知っている広告会社であるということが、弊社の大きな強み。この生活者発想をベースに、得意先に対して最良の提案をするのが“博報堂のプロ”なのです」(渡邉氏、以下同)。
そのため「構想ベーシックス」では“生活者の本質”を読み解く力をしっかりと習得することが、重要なテーマになっている。
「 その象徴ともいえるのが、入社3年目に行う『コピーライティング教室』というプログラムです。ここでは、たくさんの情報や資料の中から本質を見つけ出し、それを的確な言葉で表現できるようなトレーニングを行っています。
弊社では、チームのメンバーが情報を共有し合ったり、意見をぶつけ合ったりしながら、より質の高いものをつくり上げる作業を“共創”と呼んでいますが、より良い共創のためには、コピーライター以外の職種の社員も、説得力のある言葉を生み出す力をつけることが不可欠です」
「 構想ベーシックス」のもうひとつの特徴は、大半の講義で同社の現役社員が講師を務めていること。「博報堂の人間を一番良く知っている教師は博報堂の人間である、というのがその理由です。講師を引き受けた中堅社員は、教えるという経験を通じて自分がそれまでやってきたことの棚卸しができるので、彼らにとっても成長の機会になっています」
社員の“ラーナーシップ”を刺激するさまざまな取り組み
近年、広告会社を取り巻く環境は大きく変貌し、広告制作の領域をはるかに超えるような業務も求められている。たとえばクライアントの新規事業を一緒に立ち上げ、そこでのコミュニケーション業務も担当する、といったケースも少なくない。そこで「構想ベーシックス」で広告制作のスキルとナレッジを習得した社員が、次に受講するのが「ビジネス構想プログラム」である。