企業事例1 TOTO 「経営塾」を軸として中堅時代から志を育てる
TOTOは近年、今後の発展を見据え、中堅人材の研修内容を大きく見直している。社長直轄の次世代リーダー育成、育成を通じたグループ横断の人脈づくり、研修を受けた配置転換など、これまでになかった手法を取り入れたのだ。中堅人材数は決して多くないが、次代を担うリーダーとなるべくリーダーシップを発揮できるような育成が行われている。
全体俯瞰の視点を持つリーダーを育てる
住宅設備機器メーカーのTOTOは、グループ会社を併せた連結で2万5000人もの従業員を抱える。しかし、意外にもグループ全般で中堅となる30 代の人材が不足しているという。
その理由を、人財開発本部経営塾長の加藤英索氏はこう語る。
「バブル崩壊の時期、採用数が少なくなりました。その影響で、30 代社員が非常に少なくなってしまったのです。この年代には全員、TOTOグループを背負って立ってもらわないといけないといっても過言ではない。全員にリーダーになるという気概を持ってほしいと思っています」
TOTOにとって、貴重な中堅人材の育成だけに、研修の種類も非常に多い。その内容について、人財開発本部、経営塾企画主査の石井美和氏はこう語る。「研修区分としては、仕事のプロを育成する目的で階層別研修、分野別研修があります。加えて個別支援を行う自律支援研修があり、それらとは別に次世代リーダー育成を行う経営塾を実施しています」
これら中堅向け研修の中でも最重要とされるのが、次世代リーダーを育成する「経営塾」だ。実はTOTOが上場後初めて赤字となった1998年に「社長塾」としてスタートしている。「当時の重渕雅敏社長がこのままではいけないと、社長直轄の社長塾をつくり、人材育成の改革を始めました。それまでは部門ごとに人を育てる傾向が強かったのですが、職種や会社の壁を越えて人材を集め、グループを俯瞰できる人材を育てることにしたのです」(加藤氏)
1つの部門だけで成長すると全体を見る力がどうしても弱くなってしまう。それが赤字の原因につながったのではないかと考えたのだ。
「異動がないと、上司の顔色をうかがいがちです。これでは、真に顧客起点でビジネスを行うことができません。顧客起点で見れば、部門を越えた協力は必須。今では、研修後に配置転換を行って修羅場を体験してもらい、幅広い視野を持った人材を育てる体制ができています」(加藤氏)
2009 年に、世代別に行っていた複数の選抜研修を1つにし、「経営塾」と名前を変える。統合によって選抜、育成、登用までの一貫したマネジメントができるようになり、研修後の配置転換も行われ育成の幅も広がっている。
「志」の根は遥かなる創業者精神
中堅社員に「リーダー」となることを期待するTOTO。それでは、同社の「リーダー人財」の定義とは何か?
同社では、マネジャーとリーダーの違いを明確にしている(図表1)。マネジャーは既知の世界、見えている世界で、決められたことを正しく遂行することが仕事。求められる性質は、効率・正確性である。一方、リーダーは未知の世界、見えない世界で真に正しいことは何かを追求することが仕事。不確実性・リスクへの挑戦が不可欠になる。