Opinion 1 リーダーシップ以前に必要なのは“メンバーシップ”
育成経験の乏しい上司たちや偏った成果主義の導入、自律型人材育成の推進等々――30代の職場環境は次世代リーダーが育ちづらいものとなっている。『不機嫌な職場』の著者、ジェイフィール代表取締役の高橋克徳氏は、なかでも彼・彼女らに不足している能力として、リーダーシップやメンバーシップを挙げる。その理由と、リーダーシップ・メンバーシップ向上に効く、組織アプローチとは。
独力で育った今どきの30代たち
一口に中堅リーダー層といっても、抱えている問題は、世代によって異なる。
バブル崩壊前後に入社した40 代前半の世代にとっては、その後、会社が採用を抑えてきたために、後輩不在の期間が長く続いた。このため、人を教えた経験は極めて乏しい。部下の育成方法がわからず、戸惑っているリーダーは少なくないようだ。
そのような上司や先輩を見て育ってきたのが、30 代の就職氷河期世代である。新人時代から親身に仕事を教えられた記憶がなく、常に自力で困難を乗り越えてこなければならなかった。十分な教育を受けないまま、多量の仕事をこなさねばならず、心身ともに余裕がない状態だ。
さらに、彼らが入社したのは成果主義がもてはやされた時期。自律型人材の育成が声高に叫ばれ、「自ら考え、行動する30 代」「セルフマネジメントできる30 代」が生み出されていった。
今、組織の中核で活躍しているのは間違いなくこの層だろう。厳しい就職戦線を切り抜けてきただけあって基礎能力は高く、実際に成果を上げている人材も多い。
その反面、自分の仕事、自分の成果にしか関心を向けられなくなっているタイプが多いのも事実である。
こうした組織の中核となる30 代の多くが、リーダーシップを発揮できずに苦しんでいる。
上司に育てられた経験が希薄なため、後輩の育成方法を習得しづらい環境に置かれた。ましてや、後輩・部下の20 代は「オンリーワン」がもてはやされた時代に育ち、熾烈な競争に慣れていない。社会への貢献意識が高く、情報リテラシーに長けている反面、先輩から厳しいことをいわれると一気に自信を喪失してしまうタイプが多い。放置されればされたで不安を募らせ、落ち込んでしまったりもする。
セルフマネジメント力の高い30 代にしてみれば、こうした20 代の不安は理解しづらいらしい。また、自分が自力で育ってきているため、部下や後輩をサポートする必要性も感じられない傾向にある。
かつての組織は、「上司と部下」という縦のつながりによってリーダーシップの連鎖を紡いできた。だが、縦のつながりが揺らいでいる現状において、20 代もまた「育てられない30 代」になる可能性は高い。