木川理二郎 人間同士の「対話」と 価値観の共有が 国を越えた連帯感を生む
人間同士の「対話」と
価値観の共有が
国を越えた連帯感を生む
世界不況の痛手からいち早く立ち直り、新興国の目覚ましい発展の波に乗る建機業界。
そのトッププレイヤーの1社として、中国、インドをはじめ、世界にネットワークを拡大し続けるのが
日立建機である。油圧ショベルを主力製品に、建設機械、産業機器の製造、販売、
アフターサービスなどを展開する。同社のグローバル展開はどのように達成されてきたのだろう。
企業文化を体現する「Kenkijinスピリット」こそその要、と語る木川理二郎代表執行役社長に、
グローバル人材育成における信念を聞いた。
グローバル化の基本Kenkijinスピリット
――御社は新興国の建設需要の波に乗り、中国やインドなどを舞台に快進撃を続けておられます。グローバル時代を支える人づくりについてどうお考えですか。
木川
当社の売上高における海外事業比率は、今期(2011年3月期第2四半期)、連結で78%。遠くない将来、80%を超えるはずです。しかし海外事業比率が高いからといって、グローバル化できているということにはならない。本当のグローバル化は、その国の風土や文化を受け入れ、同化していくこと。そのうえで事業を進めていくことではないでしょうか。その意味では、当社のグローバル化はまだまだ不十分だと思いますね。
現在、当社の海外における生産・販売拠点はアジア、アフリカ、アメリカ、オセアニア、中近東、ヨーロッパに31社。このうち、ナショナルスタッフがトップを務める拠点は7、8社です。あとは、すべて日本人社長。とてもグローバルな状況とはいえません。もちろん、進出当初は日本人がマネジメントせざるを得ませんが、その後は現地のスタッフに権限委譲していくことが望ましい。
しかも、日本人のトップは、就任後3~5年で帰国し、そしてまた、新しい日本人がやってくる。こうして次から次へとトップが変わるようでは、従業員はたまったものではないですよね。こんなことでは、モチベーションも維持できなくなってしまうのでは……。あくまで私がそう危惧しているだけで、現実にそういうことが起きている、というわけではありませんが。
――国内人材のグローバル化についてはいかがですか。
木川
現在、本社における海外従業員はロシア人、中国人、アメリカ人など約10名しかいません。もっと増やすべきだと思います。役員も全員日本人ですが、これもおかしい。
海外の事業はどんどん海外の人材に任せ、国内にも海外人材を呼び込む。それができてはじめてグローバル化といえるのではないでしょうか。もちろん一朝一夕にできることではありませんが、なるべく早い段階で実現したいと考えています。
ただ、本当に日本人と日本企業が、海外の人に事業を任せられるのか、という疑問が湧いてきます。ここで重要になるのが「教育」です。
私は、グローバル教育において最も肝心なのは企業文化教育だと考えています。つまり、日立建機の文化、価値観を教え、共有してもらうのです。価値観さえ共有できれば、後はほぼ任せてしまって構わないでしょう。
なにしろ、文化も習慣も違う国でビジネスするのですから、日本と違うところをあげつらって、無理矢理変えたところで意味がない。しかしだからといって、何でも勝手にやっていいということではありません。
当社は今年で設立40年を迎えたのですが、創業以来受け継がれてきた企業文化を、私たちは次世代、またその次の世代に伝えていきたいと考えています。この思いを海外で働く人々にもしっかり共有してもらいたいのです。
――価値観を共有されるために、ハンドブックを作られているとお聞きしました。
木川
2007年に、1人ひとりの具体的な価値基準・行動規範をまとめたハンドブック「Kenkijinスピリット」を作り、全世界およそ1万6千人の社員(当時)に配付しています。社員たちは昔から当社のイメージや、自分たちのあるべき姿について、いろいろな言葉で語っていたんですよ。「うちって何だか風通しがいいよね」「社員が明るいよね」などというふうに。
こうしたイメージ、暗黙知を明文化しようと、スタッフたちが合宿し、何度も何度も議論を重ねた。その結果完成したのが「Kenkijinスピリット」です。
企業行動基準は昔からあったんですが、これがすごいボリュームで……。こんなの読んだところで忘れちゃうよ、とみんな密かに思っていたんじゃないかな(笑)。そういうものではなく、常に持ち歩くことができて、しかもみんなの行動、心にピッタリくるものが作れないかとずっと思っていました。
ですから、「Kenkijinスピリット」は一人称で語られています。謳っている内容もシンプルで、ポイントは大きく3つしかない。
「失敗をおそれずソリューションのプロとしてチャレンジします」
「お客様が真に欲するものは何かを考えます」
「チームワークを信じて行動します」