Column どんな“制約”がある人も働ける 環境づくりの意義と方法とは ~うつ病の再発を防ぐ支援サービスの有用性~
精神障害者の雇用は、障害者雇用の中でも特に今後、推進されていくテーマである。しかし、再発の危惧など、企業側からハードルだと考えられていることがある。そのハードルを越えるには、障害者を支援したり、教育訓練を行うサービスを利用する手もある。
そこで本稿では、国内外の企業で人事の豊富な実務経験を持つ、中央大学大学院教授・中島豊氏と、うつ病からの社会復帰を支援する株式会社リヴァ代表取締役の伊藤崇氏の対談を通じ、障害者雇用の意義や企業側に求められる姿勢、また、支援サービスの利点等について解説する。
皆、何らかの“制約”を持っている
――まず、障害者雇用への中島先生の基本的な考え方をお話しください。
中島
障害者雇用というと、法定雇用率をいかにクリアするかが注目されがちですが、もっと広く人事管理の面から“働き方に制約のある人を企業の中でどう生かしていくか”という問題に置き換えて考えるべきだと思っています。一口に障害者といっても、働くのに全く制約のない方から非常に制約のある方まで大きなスペクトラム(分布)になっています。
そして“制約がある”という観点で見れば、健常者の中にも制約を持つ人はたくさんいる。たとえば風邪を引きやすい人、体力のない人、子育て中の人……。さらに今後は“介護”という制約を抱える人もどんどん増えてきます。つまり誰もが制約を持つ可能性があるわけです。ですから障害者雇用を障害者だけの問題だと決めつけないことが一番大事なポイント。つまりは多様性の管理なのです。
――現時点での、企業の実情についてどう思われますか?
中島
残念ながら日本の伝統的な人事管理システムは、働き方に全く制約がないことを前提としているので、制約に対して配慮していないことが多すぎるんですよね。たとえばアメリカの場合、国民の多様性もあって、“誰でもみんな制約がある”という意識が日本より格段に浸透しています。しかも、仕事に対して人をつける。ある仕事があって、その内容がたとえば足の不自由な方でも支障なくできるものであれば、すんなり採用されます。しかも“同一労働・同一価値”ですから、仕事に支障がないのなら障害の有無は関係なく、時給は同じです。
一方、日本の場合は能力で人を採用して、そこへ仕事をつけていくという考え方なので、フルの能力を持っていることが前提なんです。そして、すでに申し上げたように、社内のシステムも社員側に何も制約がないことを前提につくられている。
うつ病からの復職や再就職に対するサポート
――2018年4月からは、精神障害者の雇用も義務づけられる見通しになりました。
中島
企業側の懸念は、たとえばうつ病で休養していた方を雇用した場合の再発、といったことでしょう。多くの会社ではすでに休職者を抱えていますから、その労務管理の大変さとどうしてもだぶってしまう。