Opinion 1 経済学から見る障害者雇用・活用 障害者を含めた人材配置が 日本のビジネスと働き方を変える
企業や行政のさまざまな取り組みによって、障害者が働くという発想が社会に広まった。だが、今その制度は、障害者を戦力として活用できるかどうかの大きな転換点に差しかかっている。これから企業はどのように障害者雇用を進めていけば良いのか。慶應義塾大学商学部 中島 隆信 教授に伺う。
進む障害者雇用
「働く」ということは社会に価値を提供することである。障害者も社会の一員であるから、その能力を最大限に活かせる仕事に就くことができれば、本人はもちろん、社会のためにも望ましいと、常々思っている。
実際の障害者雇用の状況を見てみると、近年、目覚ましい進展を遂げつつある。より多くの障害者が、働くことを通じて社会に資する方向へと向かっているようだ。日本における障害者雇用の政策は、1960年の身体障害者雇用促進法から始まった。何度かの改正を経て、現在は50人以上の従業員規模の企業には2%に相当する障害者を雇うことが義務づけられている。
2010年の時点で、法定雇用率の1.8%に届かなかった企業は半数に上ったものの、2004年からは一貫して伸び続けている(図表1)。とりわけ大企業の伸びは目覚ましく、すでに2%以上を達成している事業所も多い。このような高い伸びを後押ししたものは、障害者雇用の義務化とセットで導入された「特例子会社制度」だ。これは、障害者を専門に雇う子会社を設立すれば、親会社を含むグループ全体の雇用として認めるというものである。
この制度が障害者雇用に大きな弾みをつけた理由は、知的障害者がまとまって働ける環境ができたことだ。知的障害者はどこに障害を持つかがわかりにくく、一般従業員と一緒に業務をこなすことが難しい。そこで特例子会社を設立し、彼・彼女らができる仕事を集めれば、雇用もしやすくなる。実際、知的障害者の雇用はここ10年でほぼ倍増している。一方、身体障害者は事務処理能力等々については、なんら差し障りはない。そのため以前から身体障害者の雇用は特に進んできていた。法定雇用率が1.8%から2%に引き上げられたのはこの2013年4月からだが、2018年からは、精神障害者の雇用も義務づけられている。障害者雇用は今後もさらに進むものと見込まれる。
障害者雇用の“望ましい姿”
一見、順調に定着しつつある障害者雇用。だが、今、曲がり角にあり、いくつかの課題に直面している。
第一に、障害者雇用納付金制度が行き詰まっていること。この制度は法定雇用率を満たせない企業が納付金を納め、その資金を、雇用率を超えている企業に調整金として支払うという制度だ。