巻頭インタビュー 私の人材教育論 「気骨を持て」「異端児であれ」 400年の伝統が生きる“新・人事訓”
自動車部品、情報通信機器、電子部品、産業素材――1897年の創業以来、独創的な研究開発で業界をリードし続ける住友電気工業。そこに生きるのは、400年にわたり、脈々と受け継がれてきた「住友事業精神」。そして変化を恐れず堂々と歩む姿勢。確固たる基本精神をベースに、強力な結束力のもとグローバル展開してゆく松本正義社長に人づくりへの思いを語っていただいた。
不易の精神「グロリアス」
――2004年、代表取締役社長に就任された時、「グロリアス・エクセレント・カンパニー(Glorious Excellent Company)」という新構想を打ち出されました。この言葉に込めた思いをお伺いしたいのですが。
松本
「あるべき姿」「理想の姿」として、住友電工が旗印に掲げているのが「グロリアス・エクセレント・カンパニー」です。
実は、この構想は大変苦しい状況の中から生まれてきました。代表取締役社長に就任した2004年は、当社グループにとって節目の年。ITバブルが崩壊し、2002年度は戦後の混乱期を除き初の最終赤字に転落した年です。その後、涙をのんで減損会計や人員の配置転換、事業の分社化や他社とのアライアンスを敢行。岡山紀男・前社長からバトンタッチを受けたのは、まさにそんなタイミングでした。社長の椅子に座り、周りを見渡せば「淀屋橋(本社所在地)の求心力が低下している。これでは、当社グループの総合力が発揮できない」。これが正直な実感でしたね。
当然といえば当然かもしれません。以前から事業部制を導入していましたが、気づけばグループが、てんでばらばらの方向を向いていた。彼らにしてみれば、「本社から放り出された」という思いがあるんでしょう。「それならそれで勝手にやらせてもらおう」と。かつてはしっかりとしたヒエラルキーのもと、家族的で風通しのいい社風が保たれていたものですが、そのヒエラルキーが足元から瓦解しようとしていた。どうすれば、かつてのあの強い結束力を取り戻せるんや――。
私なりに思い悩み、そしてたどり着いたのがこのキャッチフレーズだったのです。
――「グロリアス」は「栄光ある」という意味ですが、なぜこの言葉を選ばれたのでしょう。
松本
「グロリアス」は、かつて十字軍の旗に書かれていた言葉だそうです。その歴史に照らせば、かなりアグレッシブな勇壮な言葉ともいえるんです。つまり、「正しいと信じることをやり遂げよう」という意味が込められていたわけですね。どんなに歴史が流れようとこの言葉が持つ強固な精神は変わらんはずや、と思った。
住友家の初代、住友政友は400年ほど前、「文殊院旨意書」という商いの心得を記しています。その前文に「萬事入精」というキーワードが出てくる。「何事も誠心誠意立ち向かい、日夜奮闘して成功させよ」との意です。またその後、明治24年に制定された住友家法「営業の要旨」では、「信用・確実を重んじること」や、「進取の精神を持ちながらも浮利に走るな」などの教えが説かれている。これらの教えは不変です。世の中がどう変わろうと住友本来の精神を忘れてはいかん。
一方、「エクセレント」は「卓越した」の意ですが、こちらは変化を恐れずより高みをめざす姿勢を示している。中期経営計画の目標を一つひとつ達成していく意気込みを表すものです。