ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第3 回 組織活性化のポイント 健康の増進と生産性の向上の両立に向けて
依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。
1. はじめに
従業員一人ひとりが健康でいきいきと仕事に取り組むことは、従業員の幸せにとっても、組織全体の生産性にとっても重要です。ところが、第二次世界大戦後から展開されてきた我が国の職場のメンタルヘルス対策では、従業員の健康には注目するものの、従業員がどの程度いきいきと仕事をして生産性を上げるかには、あまり注目していませんでした。むしろ、生産性の向上を促すことで、かえって健康を損ねるのではないかと懸念すらしていました。
一方、組織マネジメント(つまり経営側)では、従業員一人ひとりの生産性には注目していましたが、従業員の健康にはあまり注目していませんでした。むしろ、従業員の健康状態に配慮することで、かえって生産性が落ちるのではないかと懸念していました。その結果、これまでのメンタルヘルス対策と組織マネジメントは、お互いに協調することなく展開されてきました。
ところがその後、産業構造の変化(サービス業の増加)、働き方の変化(裁量労働制など)、情報技術の進歩など、従業員や組織を取り巻く社会経済状況は大きく変化しています。こうした変化に組織が対応して生き残っていくには、従業員一人ひとりが健康“かつ”いきいきと仕事に取り組むことが重要になってきます。つまり、産業保健にとっても経営にとっても発想の転換が求められるようになったわけです。
本稿では、健康の増進と生産性の向上を両立させるための考え方として、「ワーク・エンゲイジメント」と「仕事の要求度-資源モデル」を提案します。次に、これらの考え方に基づいて組織の活性化に取り組む2つの企業の例を紹介し、そのうえで、健康の増進と生産性の向上の両立をめざした組織活性化のポイントを提示したいと思います。
2. 仕事の資源の向上がカギ
産業保健とマネジメントとが協調するためには、共通した目標が必要です。本稿ではそのために、前回前々回でも触れられた「ワーク・エンゲイジメント」に注目します。ワーク・エンゲイジメントとは、仕事から活力を得て「いきいき」とした状態であり、「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素から構成されます。エンゲイジメントの高い従業員は、心身の健康が良好で、生産性も高いことがわかっています。
では、どうしたらワーク・エンゲイジメントは高められるのでしょうか。そのカギとなるのが「仕事の資源」です。
仕事の資源とは、「仕事のストレスを軽減し、個人の成長、学習、発達を促す働きを持つ要因」です。いわば、仕事や組織の持つ強みともいえ、以下の3つの水準に分けることができます。
○作業や課題に関するもの(裁量権、仕事の意義など)
○チームや人間関係に関するもの(上司や同僚の支援など)