人材教育最前線 プロフェッショナル編 人財開発の仕事は医療と同じ 問題の分析から解決への処方
人財開発の仕事を医療と重ね、「人財開発部門は、人・事業・組織に関する医師という気概を持って仕事をしています」と語るのは、人事総務本部人財戦略部 主管の森邦夫氏だ。現場に踏み込み、人・事業・組織などのあらゆる視点を考察して解決の糸口を探る。「新入社員の頃の私は、定年まで気楽に働ければいいと思っていた」と笑顔で答えながらも、森氏の仕事ぶりは人財開発部門の枠を越えたものだった。長年の現場経験が形づくる、同氏にとっての“人財開発部門のあるべき姿”とは何か、話を聞いた。
多様な視点で物事の本質を見抜く
「週休2日の会社で、成長企業。そんな理由で選びました」と入社動機を語るのは、人財戦略部 主管の森邦夫氏である。そして同時に、「国際電気(当時)には、未来への可能性が見えた」と話す。
森氏が入社したのは1981年。当時、一世を風靡したアメリカの未来学者アルビン・トフラーが、近い将来、飛躍する分野として予測した“通信・放送・映像・コンピュータ・半導体”にかかわる事業を国際電気は全て持っていたのだ。
新人研修後、森氏は電子通信事業部の企画部門に配属され、工程管理を担当したが、そこは営業職に進む新人が、製品の製造プロセスを学ぶために配属される部署だったという。その過程で、約4カ月に及ぶコンピュータ研修を受講した。「日立製作所と国際電気の新入社員が一緒に学ぶ研修でしたが、私は営業配属の予定だったので、この先、工場に入って大型コンピュータを操作することもないだろうと思い、大して勉強をしませんでした。ですから、成績は新人の中で最下位です」
ところが、研修後に発令された異動先は、情報システム部。資材・生産管理システムのソフト開発担当となった。しかし、この異動が、森氏の仕事に対する意識を転換させる大きな出来事を導くことになる。
研修で同社を訪れたアメリカ人コンサルタントが、森氏を「You’re a verygood programmer」と称賛した。「 成績最下位の私が、very goodと言われ驚きました。“君が書いたソフト(プログラム)はメンテナンスする時に修正しやすい”と言うのです。
システムは仕事や制度の変更に対応するためにメンテナンスをします。その際、開発当時のソフト担当者以外の人がメンテナンスすることもしばしばあります。ソフトはいわゆる“文章”ですから個人のクセがあり、他人が書いたものは読みづらい。しかし、私のソフトはレベルが高くなかったがゆえに平易で、他人でもメンテナンスしやすいものだったのです」
さらに、ユーザーにヒアリングし、実業務を理解したうえで、人が処理する部分と機械が処理する部分を分け、ソフトで対応する箇所を最小限に抑えたことも、森氏が評価された理由の1つだった。
「ソフトが好きな人、得意な人は高度な手法を活用しようとするので、複雑で難解なシステムになりがちです。テクニックに優れたプログラマーが作るソフトが、ユーザーにとって使いやすく、良いシステムになるとは限らないと気づきました」
視点を変えると、見えてくるものが変わる。この時、本質を見抜くには、多様な視点が必要だと実感したという。