CASE.4 東京都 言葉で考える人間として 生き抜くための言葉の力を取り戻す
2010年4月、猪瀬直樹副知事(当時・現知事)がスタートした「『言葉の力』再生プロジェクト」。猪瀬氏は本誌2010年11月号のインタビューで、日本人の言語力の低下に警鐘を鳴らしている。「人間は言葉でものを考えているのだから、言葉をきちんと鍛えなければダメだ」。言葉を鍛えることで、自分の気持ちや考えていることを他者に伝え、他者とかかわっていくことができる。考えて、他者にかかわって生きる――言葉の力を回復することは、生きる力の回復につながるのだ。
●背景危機感からのスタート
若者を中心とした「活字離れ」は、自分の考えを伝えられない、話の真意を理解できない、といった最近の若者に見られる傾向との関連性も考えられ、社会に重大な影響を及ぼしている可能性がある――こうした危機感からスタートした東京都の「『言葉の力』再生プロジェクト」。本誌2010年11月号の特集「考える力を強化する」でお伝えした、その後の取り組みを紹介する。
基本的な問題意識は当時と変わらないが、次代を担う若者たちを取り巻く社会は、国際化・情報化が進み、「言語力」(“情報を正確に理解したうえで、相手の表現の意図や背景を推論し、根拠を挙げて自分の意見を述べ、話し合って、与えられた課題を解決できる力”と定義)は生き抜くためにますます重要性を増している。
プロジェクト開始時の状況について、知事本局政策部政策担当課長の天津利男氏は言う。「当時の調査によると、1カ月で平均何冊本を読むか?という質問に対し、10代後半の約半数が『0冊』と答え、10~20代で新聞を毎朝もしくはほぼ毎朝読んでいると答えた人は、わずか2割でした。また、言語力の国際的な指標であるPISA(国際学習到達度調査)の読解力テストで、2000年には8位だった日本の順位が、2003年には14位、2006年には15位に落ちていました」
そこで、猪瀬直樹副知事(当時)をリーダーに、都の施策の企画・立案を担う知事本局、都民の文化活動の支援や私立学校の振興などを担う生活文化局、公立の小中高等学校および特別支援学校の教育行政全般を担当する教育庁に財務局を加えた4局から成る、局横断的なプロジェクトチーム(「活字離れ」対策検討チーム)を設置。実態を把握して有効な対策を探るために、言語学、心理学、脳科学、ITなど各界の専門家を招き、計6回の勉強会(および意見交換会)を実施した。
「この勉強会を通じて、言語力を身につける機会が不足していたこと、言語力の向上のためにも読書の機会を広める必要があることを痛感したことから、取り組みの柱を“言語力の習得・向上”と“誰もが本を読める環境の整備”の2つに定めました(図表)」そして“言語力の習得・向上”が特に求められる人材としてピックアップされたのが、(1)都庁などで働く職員、(2)若者の就業支援を行う担当者、(3)小中高校の教職員の3グループであった。そこで早速2010年の夏から「東京都新規採用職員向け言語技術研修(30名)」「教職員向け言語技術研修(公立小中高等学校教員、および指導主事46名)」「就業支援担当者向け言語技術研修(職業訓練指導員など約240名)」などが行われた。