CASE.3 キングジム 考え抜くために必要なものとは 思いつきを深めて形にする “チームで対話し考える力”
キングジムといえば、スクエアマークのファイルなど、オフィス文具の老舗だ。デザイン性の高さや単機能が製品の特長で、近年ではデジタル技術と連動した商品でヒットを連発。そうした独創的な商品を考える力は、どのように生まれているのか。商品開発部長の安蒜康英氏に伺った。
●秘訣1 研修よりも実戦で学ぶ
ラベルライター「テプラ」をはじめ、乾電池式のテキスト入力専用機「ポメラ」など、文具回りのニッチを突く商品を生み出しているキングジム。その牽引役である商品開発部門には現在、約35名の社員がおり、5つの課に分かれている。それぞれアナログ文具に強い課、あるいはITを取り入れた新商品が得意な課などの特色を持つが、近年はそうした垣根を越えた商品企画も続々と世に出している。「誰もまだ考えついていないものを世の中に先駆けて商品化し、市場でポジションを確立していくことがキングジムの開発ポリシー」と語るのは、商品開発部長の安蒜康英氏だ。
そうした同社の開発部では、思考力を高める訓練が常々なされているのだろうと想像するが、意外なことに、考える力を磨くための研修は取り立てて行っていないという。「その代わり、開発メンバーには、入社1年目から実際に企画をどんどん立案してもらいます。自分のアイデアを世に問うチャンスを、新入社員の時から持たせるのです」(安蒜氏、以下同)ロングセラー商品を改良したり、決まった仕様のものをつくったりするのであれば、経験やノウハウが大いに役に立つ。
だが、「これまでにないもの」という未知の領域では、むしろ素人目線からのほうが斬新なアイデアを生みやすい。新人もベテランも誰もが横一線、みんなが挑戦者というわけだ。しかし、本当にそれで機能するのか。「実は、他にも個々の考える力を最大限に引き出すため、非常に大切にしていることがあります」
その一つが、「形式ばらないディスカッション」だ。企画会議や企画に関する相談は、決まった時間に決まった場所で行うわけではなく、多くの場合、各自が好きな時に声をかけ合う。その“ゆるい会議”が自然発生しやすいよう、開発部の机は、大部屋に各課が島を形成する形でレイアウトされ、島と島の距離もあまり離れていない。雑談的かつ日常的にディスカッションが始まり、隣の課の話にも自由に首を突っ込める環境になっている。
●秘訣2 考えを研ぎ澄ます投げかけ
未来のヒット商品の種子は、一人ひとりの頭の中に眠っている。普段の生活で「あったらいいな」と思うものをイメージし、少しずつ膨らませていくことから始まるのだ。だが、一人で考えていると不安に駆られたり、迷いが生じる。新機能を付け足したほうがいいのではないか、最初にやりたかったことはこうなのだが、どうも違うほうに進んでいるように感じる……といったように。だからこそキングジムでは、他の人とのディスカッションや対話を通じて原点を再確認し、誰に、どうやって使ってもらいたいのかを明確にしていく。