Opinion 2 考える力は本で身につける 読書こそ知を強化する唯一の道
外務省時代は国際情報分析の第一人者として活躍し、現在はインテリジェンス論から男女の人生相談まで幅広い著述活動を行う作家・佐藤優氏。4万冊の蔵書を有し、月に300冊以上の本を読むという佐藤氏は、読書によってしか「知」は鍛えられないと語る。なぜ本を読むのか。どう読み、どう仕事に活かすのか。本との向き合い方について話を伺った。
「型破り」には「型」が必要
──読書離れが叫ばれています。
佐藤
私の印象では二極化が進んでいるように思います。私は今年の6月30日まで10年間、一切公共交通機関を使いませんでした。というのもご存知の通り、私は執行猶予中の身だったものですから(笑)、万一何かトラブルが発生したら懲役になる可能性があったからです。
でも、そのおかげで世の中の変化が非常によくわかります。電車に乗って驚くのはスマートフォンをいじっている人の多さ。大抵ゲームですね。何もせずにいられないというのは明らかに依存症です。しかもゲームはあくまで機械的な反応ですから、知性にとってはマイナスの活動といえます。
スマホ依存症が増えた一方で、本を読んでいる人も増えました。およそ5人に1人は読書を、しかもきちんとしたビジネス書や洋書の対訳本を読んでいる。そうした上昇志向の強い人と、そうでない人の差がはっきりしてきました。
──その意味では今こそ読書の有用性が問われると?
佐藤
そう思います。大切なのは基本です。基本という「型」。読書はその型をつくるために絶対に必要なものです。
「型破り」という言葉がありますよね。型を学び、それを破ることによって初めて独創性が生まれる。
柔道の創始者である嘉納治五郎もさまざまな柔術を学ぶことで柔道を生み出しました。これは知的活動においても同様です。一部にでたらめなものを独創的ともてはやす風潮がありますが、型を知らずに独創的なものが生まれるはずがない。
では、どこでその型を身につけるかといえば、高校までの基礎教育なんです。そもそも物事の考え方がわからないという人がいますが、そのためのベースとなるのが高校教科書レベルの基礎知識。どんなに難しい本を読んでも、字面を追うだけで内容が理解できなければ思考にはつながりません。きちんと考えるためには読解力や論理的思考力が必要です。そのために最も重要なのが基礎教育であり、それがあれば未知の問題にも対応できます。
10年以上前、『分数ができない大学生』(東洋経済新報社)という本が話題になりましたが、そこに生産ラインで働く熟練工の話が出てきます。彼らはトラブル発生時、たとえマニュアルになくても原因を論理的に考え適切な対処ができる。決して偏差値が高い学校を出たわけではないけれど、これは基礎教育を身につけ、しっかり本を読んできた証拠です。だから自分の頭で考えられる。このように、人間は本来、生きるために必要なだけ本を読み、知識を身につける存在なのです。
しかし、今生きるためだけの本を読んでいるのでは、将来やっていけません。さらに残念なことに今、読みこなすための基礎知識が落ちてしまっている。30年ほど前からまず数学離れが起き、次に英語離れが起き、とうとう国語離れが起きました。しかし、本来、ビジネスパーソンにとってはこの3つが基本なのです。