巻頭インタビュー 私の人材教育論 人は“育てる”のではなく“育つ”―― 会社は学ぶ大切さを伝え自ら学ぶ人を支援するのみ
1993年に伊藤忠商事から、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。そして社長などを歴任した後、2009年にカルビーの会長兼CEOに就任した松本晃氏。この4年間で収益性を改善し、株式上場を果たすとともに、海外事業の大幅拡大を打ち出した。新しいステージに入ったカルビーが求める人材像や、企業人に必要な成長の要件とは。
ポテンシャルを引き出し方向性を示す
――2009年にカルビーの会長兼CEOに就任されましたが、それまでのいきさつを教えてください。
松本
ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)の社長を辞めた後、カルビーの社外取締役を引き受けた際に、この会社はポテンシャルが高い会社だと、まず思いました。スナック業界ではトップシェアを誇り、商品もいい。ただ、利益率は低く、売り上げも伸び悩んでいた。ですから、「ここを変えればいい会社になりますよ」と経営陣に提言していたのです。すると、退任する社長の後任として社長をやってくれないか、と言われたのです。ですが、すでに何回か社長業を経験し、大変さを十分知っていたので、「社長はやりません」とお断りしたところ、「では会長を」というお話をいただいたので、カルビーが持っているポテンシャルを引き出すこと、5年、10年先の進むべき方向性を示すことを自分の役目と考え、お引き受けすることにしました。
――その決意の通り、自己資本利益率(ROE)は、2009年3月期の5%から2013年3月期に11.4%と、2倍以上に拡大しました。コスト削減の成果ですか。
松本
コスト削減といっても、何かを事細かに指導したのではなく、コストを抑える仕組みをつくりました。食品業界の営業利益率のスタンダードは15%くらいですが、当時、カルビーのコストは、売上規模が当社の3分の1程度の競合よりも13%ほど高かった。3分の1規模の会社であのコストを実現できるのなら、当社はもっとできるはずだと考え、可能にする仕組みをつくったのです。まず、変動費をできるだけ下げ、下がった分は商品の価格に反映させて顧客に還元しました。価格が下がれば、価格競争力が高まり売り上げが伸びますから、工場の稼働率が上がり、その結果、固定費が下がりました。製造業を経験した人でも固定費と稼働率の相関関係を理解している人はあまりいませんが、稼働率が上がると固定費は結構下がります。固定費が下がって出た利益を会社に取り込んだのです。まあ、当たり前のことを当たり前にやっただけのことなのですが。
――当たり前とおっしゃいますが、特に外から来た人が何かを変えようとすると、“笛吹けど踊らず”ということも少なくありません。そうしたご苦労は。
松本
抵抗がゼロだったとは言いませんが、もともと皆さん、とても素直で愛社精神がある方たちですから、苦労はありませんでした。
また、なるほどと納得できることには誰もが協力しやすいでしょう。ですからそう思わせるまでしっかり説明しました。そして、実行して出た成果はちゃんと従業員にも還元し、成果を実感させる。そうすれば、おのずと従業員の意欲も高まります。