人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第13回 『蝉しぐれ』
藤沢周平の代表作の1つである『蝉しぐれ』。今回、この小説について改めて調べてみて、意外なことがわかった。この小説は80年代の、バブル好景気真っ盛りの頃に新聞に連載されたのである。内容からして、もっと前に書かれたものだと思っていた。この小説が支持されて、その後テレビドラマにも映画にもなったことを思うと、少なくともある世代以上の日本人には、「蝉しぐれ」に胸を打たれる感性が残っているということか。物語は、海坂藩という架空の藩を舞台に進む。牧文四郎は、父親がお家騒動に巻き込まれて切腹。家禄を減らされて母親と二人、雨漏りのする長屋で暮らすことになる。家が隣同士だった娘ふくとは相思相愛だが、お互い言葉に出して想いを伝えたことはない。そして、ふくは江戸の上屋敷に勤めることとなり、やがて藩主の子を身ごもる。それから20数年。藩主が亡くなり、一周忌を機に仏門に入る決意をしたふくは、「今生の未練」で文四郎に会いにくる。そこで二人は、抑えに抑えてきた互いの気持ちを、初めて口にするのである。私はたまたまテレビドラマの初回を観て、「何と辛い話だ」とあっけにとられながらも目が釘づけになり、最後まで観てしまった。このドラマは多くのファンを得て、繰り返し再放送された。