連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 現場経験が生み出す会社と日本を変えていく組織開発
人々と社会の課題を情報技術で解決する「課題解決エンジン」をビジョンに掲げるヤフー。そんな同社の人材開発を担っているのが、ピープル・デベロップメント本部 組織開発室 室長の吉田毅氏である。現場で多くの上司や部下と共に、いくつものプロジェクトに携わってきた吉田氏は、その経験と行動力で人事制度改革を牽引している。「インターネットが持つ可能性で、日本、そして世界をより良くしたい」と語る吉田氏。手がける組織・人材開発の取り組みが日本企業のモデルケースとなり、日本全体の活性化に貢献する日をめざしている。
メンバー一人ひとりを理解して初めてチームがうまく回る
ピープル・デベロップメント本部 組織開発室 室長の吉田毅氏がヤフーに入社したのは2003 年1月。通信・インターネット産業に将来性を感じ、同社を選んだ。当時の社員数は500人程度で、まだまだベンチャー企業の色が強かったという。
入社後、オークション事業部に配属された吉田氏はeコマースの事業開発に携わったが、半年後の組織替えで営業企画や商品企画、ウェブのプロモーション企画を行うセクションへと異動した。
ヤフーが事業を拡張する真っただ中、吉田氏は4年間で13のチームの立ち上げとマネジメントを担当した。新しいタスクやプロジェクトが次々と生まれ、常に2~3のチームを兼務しながらチームビルドを行い、かかわった部下は延べ300 人。その中で、「どうしたら人が動きやすくなるか、どうしたら意欲を持てるか」と悩んだこともあったという。
「やる気のスイッチはマネジャーや周囲が押すものではなく、本人でなければ押せないと思っています。内的な動機づけで人は強く長く動くとすれば、本人がスイッチを入れやすい環境をつくることが重要で、実務の中でそれをきちんとつくりたいと考えました」
そんな吉田氏が、「完璧だ」と思ったチームがあったという。それは吉田氏が任された7つめのチーム。チーム全体の雰囲気も良く、自分の伝えたいことも伝わり、メンバーが考えていることもよくわかった。さらに、ぶつかるであろう障壁もある程度予見でき、一緒に解決できた。何より一人ひとりが主体的に取り組めていたという。
「マネジメントとはこういうものだ、チームビルドとはこういうものだと満足しました。しかし、次のチームでは思うようにうまく回らない……。それは当たり前で、集まっている人も違えば、取り組んでいるミッションも違う。前のシチュエーションで、前のメンバーだったから、その時のやり方が合っていただけであって、それが全てに通じるわけではないのです」
一人ひとりがどういう状況なのか、どういう状態なのかをしっかり理解するというステップを踏んで、チームを丁寧につくっていかなければうまくいかない――。
「そんな当たり前のことに、その時ようやく気づいたのです。そこから自分のマネジメントスタイルが変わっていった気がします」と吉田氏は振り返る。
オープン化戦略で迎えたヤフーと自身の転換点
現在、ヤフーのトップページを見ると、「食べログ」「クックパッド」など他社のサービスが並んでいる。これは「Only1戦略」と呼ばれ、ヤフーの成長戦略の一領域における取り組みである。この戦略のベースとなっているのがオープン化戦略である。
ヤフーは2007年の「Yahoo!ウォレット」(オンライン決済代行サービス)の外部企業への提供を皮切りに、広告やI D認証、メールサービスなど、ヤフーの有するプラットフォームを外部に開放し、企業や個人がそのプラットフォーム上にさまざまなサービスをつくることができるようにした。IDやサービスの仕様、インターフェースをディベロッパーに開放することで顧客との接点を増やし、新たなビジネスモデルの確立をめざしたのだ。