~人は「育てる」べきか「育つ」のか~ これからの企業内育成を考える 人事座談会
近年のビジネス環境の急速な変化を受けて、人材開発の考え方や仕組みを見直す企業は多いようだ。そうした中、7社の人事・人材開発担当者に、その根本となる問い――人は「育てる」ものか、「育つ」ものなのか――を投げかけた。結果、この問いの答えを考えることは、人が育つ要因や、それを阻害する社内外の要因、そして、昨今の人材開発に関する課題について議論するということであった。記念すべき300号の第2特集として、2013年9月5日と12日の2日にわたり行われた人事座談会のエッセンスを紹介する。
Day.1(2013年9月5日)
Day .1では、「育つ」「育てる」というキーワードを中心に、そのための環境整備や、逆に阻害要因となるものなどについて意見交換がなされた。それぞれの企業が抱える課題や、行っている取り組みについて、話は尽きなかった。
「育てる」時代から「育つ」時代へ
──人は「育てる」ものなのか、「育つ」ものなのか──根本的なテーマになりますが、皆さんの会社の状況やお考えはいかがですか?
赤津(日本オラクル)
以前は「育てる」だったと思います。しかし、受け身で研修に参加しても身につきません。居眠りや内職も散見されましたし。また、「良い研修だった」で終わってしまい、学んだことが実践されないと意味がありません。受講者本人が「この研修に参加して、ぜひ○○を身につけたい」という切実感を持って研修に参加することが必要です。
この切実感を醸成するために数年前に導入されたIDP(インディビジュアル・デベロップメント・プラン)が役立っています。目標を実現するために必要な能力と、それをどのような方法で身につけるかについて、社員がシートに記入し、上司と話し合いのうえ合意します。また、学んだことを確実に実践するために、実際に使う場も用意します。こうすると、なぜこれを学ぶ必要があるのかが腑に落ち、実践の度合いがモニターされるので、上司の支援も得やすくなります。
庭田(ピジョン)
若手のほうが、学ぶ意欲は高いように感じます。当社の場合、当初グローバル研修に限ってですが40 歳以上を対象から外しました。「誰に投資するか?」を全社員のTOEICスコアをもとに検討し、費用対効果を考えた結果です。
人は「育てる」のか「育つ」のかという意味では、優秀な人材はどこにいても「育つ」とも考えられますが、適材適所の配置を行うことによって、より人は「育つ」という実感が私にはあります。
佐藤(内田洋行)
当社では約40 年前からMBOを行っていますが、なかなか単年度以上のスパンで部下を見られなかったり、処遇連動のため、どうしても会社主導になってしまったりします。そうするとやらされ感が徐々に出てくるので、一部の技術職に、3年スパンでキャリア開発に取り組む「キャリア・デベロップメント・プログラム」を導入しました。
どのタイミングでどの研修を受け、どういうスキルを身につけて、どういう規模感のプロジェクトに携わるかということを3年スパンで計画して、それを半年ごとに見直し、常に3年後の目標を立てていきます。これを始めてから、技術者の資格取得に対する意欲がかなり上がった印象があります。
きっかけがないと自ら学ばない?
── 各社工夫をされているのは、自ら学んでもらうにはやはりきっかけが必要ということでしょうか?
赤津
いつも会社から働きかけなければならない、ということはありません。当社では、社内SNSや自主的な勉強会も盛んです。
鈴木(三菱マテリアル)
「育てる」必要があるのは、どんなに長く見ても入社から10 年ほどまででしょう。入社後5~6年程度で一人前の社員になってほしいと思いますが……。まずは会社が「この人はこう育てたい」と考えて育てますが、どこかの段階で本人に、自ら育つことの必要性に気づかせなければならない。そのための仕掛けをつくるのが会社の役割だと思います。それが日常現場で行うOJT教育であるとともに、階層別研修や目的別研修などの研修機会を与えることだと思います。ですから、一人ひとりが育つ方向に進めるよう、できるだけ短期間に会社がいろいろな仕掛けを設けることが重要だと思います。
── ピジョンさんは、グローバル研修では40歳で線引きされていましたね。
庭田
はい。ただ、会社が「毎年全員TOEICを受けてください」と言ったら、年齢に関係なく、みんな英語を勉強し始めました。そういう意味ではきっかけは大事だと思います。
佐藤
当社の場合は、人の違いが鮮明になり始める時期である3年目までは会社主導で育てています。その後は“勝手に育つ人”が増えるといいなと考えています。
赤津
当社ではあまり年齢や年次では線を引きませんが、トップタレントには、より多くの教育の機会やチャレンジングな役割を与えます。
佐藤
そういう意味では当社も選抜型で機会を提供します。その人にロールモデルになってほしいという期待があるからです。30 代後半で最初に選抜されたメンバーはいわゆる「ジュニアボード」として、5人ずつ、2チームに分かれて事業を提案し、優秀な提案は事業化が検討されます。ただ、どんな研修でもそうですが、終わった後どうフォローして、学んだことを活かすよう本人に自覚させるか。そのことのほうが、研修の内容よりも大事だと思います。
育つ環境を阻害する要因とは
── 人が育つには環境も大事ですが、成長を阻害する要因になっていると感じることはありますか?
鈴木
おそらく、価値観の変化のスピードがものすごく速いこともあり、新入社員の専門的な能力が低下していると感じます。大学でも、かつては1から10まで学んだものですが、今は1から5までしか学んでこない。当社では、技術的専門領域や人間的能力をカバーするために、4年ほど前から若手社員教育を組織的に行うようになりました。
赤津
最近の新卒社員は、良い意味でも悪い意味でも、「仲良し」が好きで、自分だけが違う選択をしたり、突き抜けたりすることを嫌う傾向があります。ですが、「会社では、ユニークなのは良いこと。たとえば、他社と同じことをしてもお客様には選ばれない。だから、これからどう差別化するかを考えて行動してください」と伝えると、すぐ変わります。挨拶も基本を教えると、次の日からきちんとしている。それほど柔軟性のある人たちなので、受け入れ側の責任は重大だと感じます。
庭田
ずっと採用にかかわっていますが、ゆとり世代は、執着するところが地位や名誉やお金ではないと特に感じます。震災のボランティアに行くという話もよく聞きますし、いい子なんですよね。その性質をゆとり教育の1つの成果と見るべきか、それではビジネスの環境では戦えないと見るべきかはわかりませんが。
職場環境の阻害要因
── 職場環境にある阻害要因についてはいかがですか?
庭田
どの会社でもそうだと思いますが、中間管理職、特に課長職が忙しくなり過ぎて構ってやれないことは、非常に大きいと思います。
鈴木
実際、本人たちが学びたいと思わなければ育たないと思うんですが、特に、もう昇格の見込みがないとあきらめていた上司が仮にいた場合に、そうしたベテランの学ぶ意欲の低下と、そのことが組織に与える影響は、今後、より大きな問題になってくると思います。