CASE.1 イオン 実務家が語る① 「教育は最大の福祉」を貫いた20年
国内最大規模の小売グループであるイオン。創業以来、積極的な社員教育の伝統が脈々と受け継がれ、グループの成長を支えてきた。次なる目標は2020年の小売業アジアナンバーワン。そのための人材戦略キーワードは「多様性」だ。
● 背景(国内からアジア市場へ)成長を支えた人材力
景気に敏感な小売業にとって、この20年は間違いなく試練の連続だった。バブル崩壊と消費の低迷、薄日が差したところでのリーマンショック……環境の激変は業界再編を促し、市場からの撤退を余儀なくされた企業も多い。
しかし、そうした逆風の中で順調に業容を拡大してきたのがイオングループだ(イオン本社:千葉市美浜区)。2012年度の営業収益は約5兆7,000億円。2期連続で国内小売首位の座を守った。2013 年度中間決算でも過去最高の営業収益を記録。プライベートブランドの「トップバリュ」の好調、さらに小売業のみならずディベロッパー、金融、eコマースと幅広いビジネス展開がその業績を後押ししている。
現在、グループ従業員はおよそ41万人。地方中核都市並みの規模の人材がイオンの旗のもとに集い、その隆盛を支える。グローバル展開も順調に進み、中国、東南アジアを中心にGMS(総合スーパー)、SM(スーパー)、コンビニ(ミニストップ)などを多数出店。イオンでは2020 年までにアジアナンバーワンの小売グループとなる目標を掲げる。
「イオンを支えてきたのは何といっても人材の力でした」。グループ人事最高責任者の石塚幸男氏はこの20 年を振り返り、そう力を込める。
岡田屋、フタギ、シロの3社の共同出資によりジャスコが誕生したのが1969 年。その人材育成の礎を築いたといえるのが、初代ジャスコ社長の岡田卓也氏(現名誉会長)の実姉であり、人事を統括していた小嶋千鶴子氏(現名誉顧問)である。
「教育こそ最大の福祉」──賃金や福利厚生といった目に見えるものだけが重要ではない。個々の能力を開花、体内化させる企業内教育こそ社員への最大の福祉である──小嶋氏のこの理念を抜きにイオンの人づくりを語ることはできない。その思想はバブル崩壊後の荒波を乗り越えさせ、グローバル企業として躍進する大きな原動力ともなった。
ジャスコは創業後まもなく、当時としては珍しい企業内大学「ジャスコ大学」を設置し、社員たちが将来、自らがめざすポジションに就くための知識やノウハウを学ぶ場をつくった。これは現在も「イオンビジネススクール」として引き継がれ、社員のキャリアアップに活用されている。
また、当時は国内ローカルチェーンであったジャスコだが、「IN(インターナショナル)社員コース」を設置し、将来の海外出店や外国での合弁事業を担うグローバル人材の育成にも早々と着手していた。ジャスコが初めて海外に事業を展開したのが、マレーシアで1984 年のこと。IN 社員コースを設置したのが1975 年。「海外からの仕入れ業務などは商社に委託していた」(石塚氏)という時代にあって、将来の海外進出を視野に入れた先見性、戦略性に驚かされる。実際、マレーシアの初出店時に派遣されたのは、IN 社員コースを修了した社員たちだった。
「彼らの活躍によってアジア市場でのいいスタートダッシュが切れ、その後の成功につなげることができました。たとえ順風満帆でない時も、先を見すえた教育投資だけは必ず維持する。そうした小嶋の考え方が人材の成長、イオンの成長を支えてきたことは間違いありません」(石塚氏、以下同)