連載 人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第15 回 『リンカーン』
「リンカーン」
2012年 米国 監督:スティーブン・スピルバーグ
スピルバーグが監督して、2012年末から公開された『リンカーン』は、批評家から高い評価を受け、特に北米で大ヒットした。だが日本では、興行的にも話題性という点からも今一つで、残念だった。主な理由は観る前に、退屈な伝記映画だという印象を持たれたことではないだろうか。
だが実際は、リンカーンが粘り強く奴隷解放へ向けて環境を整えていく、その政治的過程を描いた異色作だった。あらゆる政治的駆け引きが繰り返され、最後は手に汗握る展開になる。1つの主張を貫き実現させるということは、これほどまでに大変なことなのかと、改めて痛感させられる。
現実と理想との間には、常に大きな溝がある。周囲を説得し、環境を整えながら粘り強く理想に近づいていくためには、強い意志と知性と知恵が必要だ。時には後退にならないぎりぎりの線で、妥協も必要となるだろう。現代を生きる、特に組織に生きる人間にとって、大きな示唆と勇気を与えてくれる映画である。