OPINION4 組織の中核として、まだまだ活躍できる 氷河期世代には「緩く束ねるリーダーシップ」と「価値観・仕事観」の教育を 谷内篤博氏 実践女子大学 名誉教授

「就職氷河期世代」は、仮に新卒、または若手のうちに就職できたとしても、その後、十分な教育機会を得られたとは限らない。
彼らは企業でどんな教育を受け、どう成長してきたのか。
そして今、どのような学びを必要としているのか。実践女子大学名誉教授の谷内篤博氏に聞いた。
[取材・文]=崎原 誠 [写真]=谷内篤博氏提供
就職氷河期は、企業内教育のパラダイム転換期
人的資源管理や組織行動論を専門とする実践女子大学名誉教授の谷内篤博氏は、著書『戦後企業内教育の軌跡と今後の展望』(泉文堂)のなかで、1990年代前半~2000年代前半、まさに氷河期世代が入社したタイミングの企業内教育を「企業内教育のパラダイム転換期」と位置づけている。
「まず言えるのは、企業が教育にお金をかけなくなったということです。労働費用に占める教育訓練費の割合は、91年には0.36%でしたが、2002年には0.28%にまで落ちています。会社の体力がなくなり、これまでのように幅広く投資するゆとりがなくなった。だから、従来のような全体の底上げ型の教育から、限られた人への教育に変わったのが、氷河期世代が入社をしたタイミングだといえるでしょう」
これと関連して押さえておくべきトピックが、日経連が95年に発表した報告書『新時代の「日本的経営」―― 挑戦すべき方向とその具体策―― 』だ。労働者を長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型の3タイプに分け、これらを組み合わせた効果的な雇用ポートフォリオの導入を提唱するもので、企業が非正規社員を増やし、正社員をスリム化していく流れをつくった。
「雇用柔軟型、つまり非正規社員を増やすということは、教育をしないということです。企業は、明らかにOff-JTにお金をかけなくなりました」
では、どのような教育に重点を置いたのだろうか。
1つは、経営体質の改善・強化を図るための教育。不採算事業から撤退して新規事業に取り組むリストラでは、職種転換教育が必要になる。また、ビジネスのプロセスをゼロベースで作り替えるBPR(Business Process Re-engineering)を進めるために、トヨタのかんばん方式やリーン生産方式などの教育が展開された。
また、グローバル競争に打ち勝つために、高度な専門教育を行う動きが出始めた。従来は、終身雇用を前提に、企業固有技能の習得に取り組んでいたが、日経連が99年に「エンプロイアビリティ(企業に雇用されうる能力)」という概念を打ち出し、社外でも通用しうる高度な専門性の習得を目指す動きが出てきた。コーポレート・ユニバーシティの設置も、このころから増えていく。しかしその一方で、企業にゆとりがないので、「自律した個」としての個人の努力に委ねられる側面も大きかった。
「次世代リーダーやグローバルリーダーの育成に注力するようになったのも、この時期です。企業は、全体としては教育にお金をかけなくなりましたが、選別した人材、優れたエリートの育成には力を入れる傾向が強まりました。なお、これらの教育が行われたのは大企業中心であり、中小企業の場合、そのゆとりすらないところが多かったと考えられます」
Off-JTが減っただけでなく、OJTの形骸化も進んだ。
「成果主義が浸透するなか、管理職のプレイングマネジャー化が進み、部下指導の時間が取れなくなって、OJTが『お前ら(O)、自分勝手に(J)、適当に(T)やれ』になってしまいました」