連載 起業するイノベーターたち 第19回 企業活力の源はサービス精神
中小・ベンチャー企業の創業者、後継者の実話から変革への要点を探る
簡易水質分析器具メーカーの共立理化学研究所。ニッチ分野ながら国内にライバル会社が存在しないため、市場シェアは半ば独占状態にある。世界10 力国に販売拠点を持ち、国際特許の先覚企業としても知られている。岡内完治社長がモットーとするのはニーズ志向のモノづくりとサービス精神。社内には、トップに対して社員のだれもが物を言える、コミュニケーションの行き届いた明るい空気が流れている。
相手の立場で考え、行動する
ひところ、米国のフォード社が「これからはメーカーではなく、消費者サービス企業になる」と宣言し話題を呼んだことがある。従来の固定した製品志向の考えから技術・機能志向的な考えに変えようというものである。つまり、商品自体だけでなく、サービス、情報、納期、引き渡し場所までをも包括したものであるという考え方に改める、言い換えればシース先行からニーズ志向への転換を宣言したものである。
もっとも、フォード社の例を出すまでもなく、ニーズ志向のモノづくりは、日本の製造業の問ではかなり浸透している。東京都大田区にある共立理化学研究所もその1社である。
同社は「だれでも、どこでもできる」簡易水質分析器具のメーカーである。主力製品で52 種類ある「パックテスト」は、ポリチューブ(ポリエチレン製のチューブ) の先端にあるラインを引き抜いて水を吸い込み、指定時間後に吸い込んだ水の変色を標準色と比べるだけで、精度の高い水質測定ができる。
岡内完治社長は、東京都大田区異業種交流会副代表幹事や民間異業種交流会のアース研究会新事業化協同組合副理事長なども務める。岡内氏が企業交流会に肩入れする最大の理由は情報収集にあるが、必ずしも情報の持ち帰りだけに固執はしていない。時には、水質分析とはおよそ無縁な案件であっても、仲間のために開発や販売のアイデアを提供する。
それは「相手の立場に立って考え、行動することが、回りまわって自分のためになり、特許にもつながる」と考えているためである。この発想は同社における人材教育の基本であると同時に、製品開発にも生きている。
例えば、アプリケーションごとに異なる「パックテスト」は、シリーズ化路線だけを見ればシース先行型といえなくもない。しかし、実際には製品アイテムのほとんどはユーザーニーズに端を発したものである。顧客が投げかけるさまざまな開発テーマと真剣に取り組むなかから、新しいアイテムを生んでいるわけである。同社にとって、交流会や各種プロジェクトへの参加はその眼力を養う道場でもあるのだ。
無料で試作を行い、ニーズを肌でつかむ
「パックテスト」の最初の製品は、いまから約30 年前、「水質汚濁防止法」が施行された時に誕生した。法律はできても、実際に排水を分析し対応策を講じることは、検査する側も、排水を出す側も至難の業であった。分析センターには数え切れないほどの採水瓶が並べられ、工場では排水分析に多大な時間と費用をかけていたという。