ここから始める!ポジティブメンタルヘルス 第9回 ワークライフバランスと人材開発
依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。
1.はじめに
「寿退社」という言葉も今は昔となりました。1998年には、共働き世帯が片働き世帯(専業主婦世帯)を上回り、増加の一途をたどっています。皆さんの会社でも、一昔前に比べて、子育てや介護をしながら働く社員が増えているのではないでしょうか。子育て・介護世代はちょうど働き盛り世代に合致することもあり、最近は自治体や各企業でもさまざまなワークライフバランス(以下WLB)対策に取り組んでいます。その一方で、まだまだ「モーレツ型ビジネスパーソン」が若い世代を中心に健在なのも事実のようです。週60時間以上働く人は、労働者全体の10%弱ですが、30代男性ではその倍の18%に及びます(平成21年度労働力調査)※1。働き盛り世代のビジネスパーソンが職場と家庭の間でストレスを感じている姿が想像できます。WLBとストレスの関連を調査した研究を集めた海外の研究結果(Allen etal., 2000)※2によると、WLBの悪化は、抑うつ・アルコール障害などさまざまな精神症状や身体症状に関連することが明らかになっています。また我々が行った東京某区の未就学児を持つ共働き夫婦2, 992名を対象とした調査でも、同様にWLBの悪化がストレスに関連していることがわかっています。これまで研究上のWLBは「仕事や家庭(子育て・介護)など、複数の役割を持つことによる役割間葛藤(Work-FamilyNegative Spillover)」と定義され、主にワークとライフのバランスがうまくとれない状況について論じられてきました。しかし最近の研究は、複数の役割を持つことによる利点や効用(Work-Family Positive Spillover)にも着目しています。たとえば、仕事以外の複数の社会的役割を持つことで、より効率的な行動ができる、生活に密着した斬新なアイデアが生まれる、仕事以外の社会的意義を持てる、などです。WLBの利点や効用がメンタルヘルスに良い影響を及ぼしていることは、多数の研究を合わせたメタ分析結果からも明らかです(McNall et al.,2010)※3。さらにWLBには、周囲の同僚や家族に伝播する効果があることもわかってきました。皆さんもこれまで“家庭で良いことがあったため、職場でもいきいき仕事ができ、さらにそれが同僚や部下にも伝染した”という経験はありませんか。WLBのよし悪しは本人だけでなく、周囲にも影響を与えるのです。このように、ポジティブメンタルヘルスの観点からもWLB対策の必要性が理解できます。そこで我々は、個人向けWLB向上ツールの開発を行っています。次項ではそのツールを一部ご紹介します。