特別企画 KAIKA カンファレンス 第三弾 KAIKAカンファレンス2014レポート
日本能率協会が1982年から開催してきた「HRD JAPAN(能力開発総合大会)」が、「KAIKAカンファレンス」としてリニューアルされた。小誌では2月号、3月号に「特別企画」と銘打ち、その背景にある考え方を紹介してきた。今回は第三弾として、いよいよ当日(2月19日~21日)に開催されたカンファレンスから、オープニングの基調講演・対談と、2日目に行われた「“ 世界潮流”Lab.」の模様をレポートする。(会場:東京コンファレンスセンター・有明)
変化のスピードがますます加速する現代。その変化を恐れずに、いかにしてイノベーションを起こせるのか。2月19日~21日に東京・有明にて行われたKAIKAカンファレンスのオープニングは、「次世代組織をつくるKAIKA」をテーマに、それぞれの分野で世界を股にかけ活躍するイノベーターたちが、イノベーションの創出について意見を交わした。
はじめに、妹尾氏は会場に向け、こう問いかけた。「15年後には今の仕事の何%が入れ替わると思いますか?」答えは65%。米デューク大学の研究者キャシー・デビッドソン氏の研究によって予測された数値だ。このことは、いかに近年の社会変化が激しく急速な進歩をとげているかを表している。この言葉を裏づけるように、実際、モバイル機器のアプリ開発者、ソーシャルメディアの管理者といったIT事業従事者は15年前にはほとんど存在していなかった。そうした時代の流れに取り残されないために、妹尾氏は「どんな社会でも対応できる、イノベーションを生み出せる人、すなわち『時代に対応できる人材』と『時代をつくれる人材』を育成しなければなりません」と語った。
イノベーションを生み出すのは事業覇道型のビジネスモデル
産業の発達は時代と共に変わってきた。imitation(模倣)、improvement(改良)という過程を経て、現在はinnovation(革新)の時代に入っている。そもそも日本は戦後、製品の模倣、改善という道のりの中から品質を徹底的に磨き上げることで世界のシェアを奪い、1980年代までに、世界に誇る技術大国としての地位を築いた。しかし、現在ではその地位は凋落しつつあると妹尾氏。例えば、IMD(国際経営開発研究所)の調査によると、日本の国際競争力は24位と低迷している(2013年)。ただし、特許出願件数は世界第2位(2013年、WIPO)であり、この順位は「技術は持っているが有効に使えていない」ということを示している。妹尾氏はこうした現状を打破するには、ビジネスモデルを“技術王道型”(図1)のみに頼らず“事業覇道型”(図2)へと重心を移すことが必要であると提言した。「技術王道型とは、今までの日本のように技術を起点としたビジネスモデル。つまり技術を開発し権利化して活用することで事業を成功させる古典的なモデルです。一方で現在、世界を席巻しているビジネスモデルは事業覇道型、つまりスティーブ・ジョブズが行ったビジネスです。彼はAppleの技術を使ってiPhoneをつくったわけではない。技術開発だけに固執せず、新たな価値を創出するツールとして既存の技術を組み合わせてiPhoneをつくったのです」イノベーションという言葉についても、次のように説明している。「イノベーションはよく『技術革新』と訳されますが、これは間違い。新しい技術を開発することのみがイノベーションなのではなく、既存のモデルを変え、新しい価値を生み出し、旧来価値と置き換えることがイノベーションなのです」また、製品の技術開発は直接対価取引に特化したビジネスモデルであるため、新興国との価格競争は避けられない。その熾烈な競争に巻き込まれないためにも、イノベーションを生み出す事業覇道型への転換が必要だと訴えた。
事業戦略を考える人材育成
次に、近年イノベーションを起こした企業の例として妹尾氏は、AppleとGoogleの例を挙げた。「Appleは“モノのサービス武装”、Googleは“サービスのモノ武装”という構造を持っています。AppleはiTunesの中に40万を超えるアプリを設けることで価値を生み出しています。GoogleはAndroidOSを世界の携帯メーカーに無料配布しましたが、OSを使わせることによって必ずGoogleを経由するというモデルをつくり、データの蓄積と活用を可能にしたのです」では、AppleやGoogleのようにビジネスモデルをイノベートするためには、どのような組織づくりをしていくべきなのか。「組織を活性化させるためには、人材を適材適所に配置することが重要です。ルーティンの仕事は“普通の人”がやるべきですが、新しいモデルを考えるR&D部門では、“変わり者”を配置するべきです。しかし、その両者だけではギャップが大きくてコミュニケーションが成り立たない。両者を巧みに活用していくことが必要です。そのためにも社内にビジネスモデルに関する共通の言語が浸透することが、イノベーション基盤として必須です」最後に妹尾氏は、次のようにまとめ、発表を締めくくった。「日本にはよい人材が溢れています。その人材をうまく活用するには、ビジネスモデルをしっかり考える『事業軍師』が必要です。既存モデルを学び、既存モデルを超え、イノベーションを起こすためには、戦略・戦術を立案し、各部門を差配できる『事業軍師』を育成すべきなのです」
続く基調対談では、演出家の宮本亜門氏、コロンビア大学医学部外科教授の加藤友朗氏、それぞれのプレゼンから始まった。宮本氏は、高校時代に引きこもりの経験があるが、自分を認めてくれる精神科医との出会いが転機となって、誰にでも自分らしく振る舞えるようになったと自己紹介。ミュージカル、オペラ、歌舞伎とジャンルを超え、枠にとらわれない演出スタイルを武器に世界的な評価を得た宮本氏は、「はっきりした1つの目標をめざすこと」「役者のよい部分を見つけ伸ばすこと」で組織をまとめ、舞台をつくっていると語った。加藤氏は、多内臓器移植の分野でパイオニアとして知られ、国内外で不可能と言われた手術を成功させてきた。そうした自らが執刀した前例のない手術を紹介し、枠にはまらない「Think out of the box」の重要性、不可能だと思われる手術でも可能性があるならやってみる「Noから始めない」という考え方の大切さを訴えた。プレゼン後、両氏の間に、モデレータの伊藤良二氏が加わり、基調対談が行われた。
伊藤
日本の企業組織では新しいプロジェクトを起こす場合、皆がかなりのプレッシャーを受けると思います。お二人はそんな時、周りの人をどうやって1つの目標に向けてガイドしていますか。