おわりに 2027年に私たちは何を思うか?
今から3年前―― 2021年はどのような年だっただろうか。延期となっていた東京五輪開催の年、といえばイメージがつきやすいかもしれない。子どものころは“3年間の中学校生活”をとても長く感じていたのに、日々仕事に追われる今となっては、あっという間に思えるという人も少なくないだろう。長いとも短いともいえない、「3年」という時間を私たちにとって価値あるものにするために、様々な考えに触れてみよう。
「育成期間は3年」の根拠
「石の上にも三年」、「3年で一人前」といったように、人の成長を「3年」で区切ることに意味があるのか。本特集の出発点となった疑問に対し、細田千尋氏(COLUMN2)は脳科学者としての観点から、「可塑性」に関する考えを語ってくれた。脳科学では、外部刺激による脳の変化を「可塑性」とよび、この変化により、新環境への適応やスキルの習得が可能になるという。しかし、一度得られた変化も継続しないと元に戻り、特に認知機能に関わる技術やスキルは、長期の継続が必要とのこと。この期間の目安が「3年」と言えるのではないか、と仮説を述べた。
また、池田めぐみ氏(OPINION2)によると、ホワイトカラーの熟達化を4段階に分類したとき、「第2段階である3〜4年目は、定型的な仕事が1人でこなせるようになる」とされており、「『石の上にも三年』は、学術的な知見とも整合的であるといえます」と話してくれた。これは、細田氏の話と合わせて考えると、脳の「可塑性」によるものといえるのかもしれない。仕事の定着には目安にして「3年」という時間が必要というのは、説得力のある話のように思える。しかし一方で、「石の上にも三年」という考え方は、今の若者の共感を得ていないという。
常見陽平氏(OPINION3)によると、就職活動の早期化により「入社1年目でも、働くことを真剣に考えてからすでに3年目以上にはなっているので、入社3年以内の離職といっても、新卒者にとってはかつてほど『早期』という感覚ではなくなっているのです」とのことだ。社会が変化するスピードも速く、早期の昇進昇格を行う企業も出始めていること、またそうした情報がSNSなどで共有されやすいことから、成長意欲の高い人ほど、機会を求めての離職・転職につながりやすいといえるのだろう。